アイヴィ・ヤコブソン

アイヴィ・ヤコブソンのネイタルホラリー

 最近たびたび引用しているけど、アイヴィ・ヤコブソン『Here and there in astrology』という本に出てくる解釈がとても独特で魅力的なのですが、その解釈はどれもホラリーチャートの読み方をネイタルチャートに応用しているような感じがあったので、それを紹介してみます。

 ちなみにこの本の著者アイヴィ・ヤコブソンのホロスコープはこんな感じです(まず形がとても美しい&海冥合の世代&本書にたびたび現れるエッジの効いた比喩の数々がどことなく匂い立つ雰囲気があります、これについては記事の中で少しずつ触れていきます)

生まれもった気象

 ホラリーでは月が質問者or質問の全体状況をあらわすのですが、月が直前につくったアスペクトはチャートを立てる直前に起こった出来事、月がそのあとに作っていくアスペクトはこれから起こる出来事というような読み方をします。

 たぶんこれを出生図に応用している読み方なのですが、月が直前に合になった天体(上の例では天王星です。どんなに離れていてもOK)は、その人の感性・感情(月)にどのような色がついているかを表すらしいです。さらに月が出生後に最初に合になる天体(上の例では水星)は、生まれもった性質がどのような結果を招き寄せるかをあらわすとしています。

 天体ごとの意味はこんな感じ。(同書8~10頁より引用。かなり意訳してますが、大きく間違ってはないと思います……)

月太陽:物事は時を得て天の嘉祉を得たようにうまく運ぶ。多少強引で”帝国主義的(王が悪いことなどするはずがない)”という面を見せながらも、強い特権を与えられて動くような面を見せる。目的の為にはどれだけ費用を使ってもいいというやや無責任・勝手なところもあるけど、別に怨まれたりはしない

水星:人々と会うときに見える賢さや機転は、他の人が何を求めているのかをよく埋めていくような面があり、相談事や調整を任されがちになる。その為、心の中には人の出入りや搦まり合った関係、話し合い、渡された橋、行き交う文書などがあって、混乱に挟まれたり間に入ったりと、その影響を受けやすい

月金星:日々の生活はするすると滑らかで、たとえ離婚話のようなごちゃついたものでも穏やかで不正のない形で(天秤座的に)していく。もっとも、調和を好みすぎるあまり、出生図で月と金星のハードがあると、どれほどお金を使っても滑らかに済ませたがるけれど、やや贅沢に耽って寛容的で恵みは多い。

月火星:その性質は大胆で果敢に物事を変えたがり、衝動的で賭けに出るようなところが多く、いつも動き回っている。やや自己辯護が過ぎるところがあり、口論がついて回ったり……
火星は打ち掛かり、擲ちつづけ、打って掛かり返り、さらに自らにも打ち掛かるほど大胆な意思をもっている。

月木星:ものごとの考え方は楽観的で、状況やら突然の幸運が上手く運んでくれると思っているところがあり、何でもやってみると結果的に繁栄につながったり、上への流れに乗れたり、”うまく行くはず“という何処となく付きまとっている感覚がある。これは月と出生前に合になる天体で最も佳いもの。

月土星:物事はよく練られて抜け目なく目が届いており、無用なおふざけや無用な感傷性がない。時機を謀って、それまでは耐えながら、頃合いをみて一気に動き、その策は賢く実用的で、事が済んだ後も問題が起こることがなくなる。骨を強めるような感情の変化を与えるので、最も賢い組み合わせ。

月天王星:物事の変化は突然にして予期せぬときに起こり、しかも逃げられず避けられないので、かなりの混乱を齎す。物事は引き剥(ちぎ)られ、結びつきが切れて出来上がったものも乖き合い、固められたものから抜け出すことを望んで、新しくて横超的な概念を思いついて生きていく

月海王星:心の中には隠し事や誤魔化しの口上があり、妄想的で構想だけはあって、それでいてぼんやりとしたまま物事を行う。桃源郷的なことを願っており、先には惑乱しているかと思えば、自己欺瞞の材料を探していたり、いつまでも自責や後悔をしていて現実世界は”霧の外”になり、最も漠(くす)みがち

月冥王星:何かが静かにやってきて、それでいて尾を引くような変化が起こる。人々との狭い関わりや或る人を失ったりすることかも知れないし、一回は混乱させられるだろうけど、その後にはどうにかしてまとめ上がられているのは、冥王星が崩れ壊れたものを練って拗(ねじ)り上げて再調整してくれるから

 まず、読んでいて思うのが「帝国主義的」「火星は打ち掛かり、擲ちつづけ、打って掛かり返り、さらに自らにも打ち掛かる(原文:Mars strikes, goes on strike, strikes back, & always strikes out for himself )」「現実世界は”霧の外”(これはかなり意訳しているけど笑。海王星のことを書くときのヤコブソンの筆の冴え方がすごい笑)」「無用なおふざけや無用な感傷性がない」みたいな表現がとても尖っていて、それでいて深く抉ったような洞察があって、読んでいて楽しいと感じたのですが、アイヴィ・ヤコブソンは出生前に月は蠍座天王星と合、出生後に牡羊座水星と合です。

 これだけでも、深くて独創的な洞察(蠍座天王星)からのエッジの効いた比喩(但し、後に書くようにときどき言葉足らずな牡羊座水星。尤も、それも一種の魅力になっているのですが)という雰囲気がこの本にどことなく漂っているのを上手く表している感があります。

 もっと色々読むと、牡羊座水星は双子座火星とミューチュアル・レセプションなので(アイヴィ・ヤコブソンはミューチュアル・レセプションの天体はそれぞれ元の度数を保ったまま、星座を入れ替えた先の性質も兼ねると読んでいます。この例だと水星は双子座5度にあるものとして読むので)、水星海王星合っぽさも帯びていることになったりします。

 さらにアセンダントルーラーの月は魚座で、牡牛座木星とは60度でミューチュアル・レセプション、海王星とは90度、さらに海王星と合になっている火星からもトリプリシティだったり、アセンダント蟹座も一説では海王星のエグザルテーションだったり、水星火星ミューチュアル・レセプションにかなり濃い色をつけている海冥合があったりと、思ったより海王星が効いている感があります。
(この雰囲気が、出生前に月海王星合・出生後に月天王星合の人間としては、読んでいて楽しいと感じるのかもです)

あなたのほしいもの

 これは71頁あたりから載っている方法なのですが、11ハウスはホラリーでは希望のハウスというふうに云われていて、望んでいることが叶うかどうかは11ハウスのルーラーで読んだりすることに由来している読み方らしいです。

 まず、11ハウスカスプがある星座は何を望んでいるかを表し、11ハウスのカスプルーラーが「11ハウスからみて幾つ離れたハウスに入っているか(アイヴィ・ヤコブソン本人の例だと、11ハウスルーラー金星は9ハウスなので、11ハウスを第1ハウスとみた場合に11個離れたハウスに入っていることになります)」で、その望みはどのようにして叶えるかを読んでいます。

(11ハウスにインターセプトされた星座が入る場合は、その星座の意味も望んでいることに加わるらしいです)

 これはホラリーの「デリヴァティヴハウス(派生的ハウス)」という技法をネイタルに活かしているらしいです。ホラリーでは「11ハウスのルーラーは、11ハウスから見て死を表す8番目のハウス(6ハウスのこと)にあり、さらに質問者をあらわす1ハウスからみても6ハウスは病のハウスです……」みたいな占い方がよく出てくる。

 というわけで、11ハウスからみて何番目のハウスにあるかを書いていくとこんな感じです。

11ハウスルーラーが11ハウス
 これは11ハウスルーラー(あなたの望み)が、みずからの周り(11ハウス)と共にあったり、周りの友人(11ハウス)が支えになってあなたの望みを叶えてくれることを示している。もし11ハウスのルーラーが太陽で11ハウスにあり、さらに2ハウスに何か天体がある場合、その天体と太陽が、ネイタルではソーラーアーク、ホラリーではトランジットで合になるとき、あなたは永らく欲しいと思っていたものを手に入れることになる。

11ハウスルーラーが10ハウスor 12ハウス
 これは11ハウスからみてセミセクスタイル(30度:セクスタイルよりは弱い協力)の関係で、これは2ハウス(ヤコブソンは書いてないけど、ホラリーでは30度を財政的援助とする例がある)・12ハウス(同じくヤコブソンは書いてないけど、妄想・夢想的なもの)の関係なので、やや弱いけど一応は援けになるらしいです。

11ハウスルーラーが1ハウスor 9ハウス
 これは60度の関係なので、周りからの機会にかなり恵まれることになり、11ハウスからみて3ハウス(周りの人々とのアイデアの循環)や11ハウス(希望からみて望んでいることなので、想っていたことが時宜を得て手に入ること)のような関係になる。

11ハウスルーラーが2ハウスor 8ハウス
 これは11ハウスをスクエアの関係になるので、これはアセンダントと4ハウス(父親)・10ハウス(母親)の関係にも似ており、あなたの望みは家系のために遮られるかもしれないし、あるいは若いうちは家計のために諦めることになるのかもしれない。あるいは、(スクエアは古典の解釈だと、手に入るけどかなり疲れることになる的な意味なので)初めはもっと簡単に手に入ると思っていたのに、いざ始めてみたら思ったよりお金がかかったり、思っていたより頑張らざるを得ないかもしれない。

11ハウスルーラーが3ハウスor 7ハウス
 これは11ハウスからみてトラインの関係になるので、これは11ハウスからみて5ハウス(アセンダントからみて3ハウス)だと親族(3ハウス)・恋人&子供(5ハウス)、もしくは11ハウスからみて9ハウス(アセンダントからみて7ハウス)なので、遠く離れたところにいても鑑賞眼のある他人(9ハウス+7ハウス)あるいは海外の人(9ハウス)が機会を運んでくれるかもしれない。これは最も幸運な組み合わせで、9ハウス的な占術的直感も手伝ってくれることがある。

11ハウスからみて4ハウスor 6ハウス
 これは11ハウスからみて150度にあたるので、望んでいるものを得るためには(その不調和な組み合わせを)根元から治すようなことをしなくてはならない。これはアセンダントと6ハウス(病気)・8ハウス(死)の関係なので、病(6ハウス)となっているものを取り除くか、あるいはあなたを殺そうとする人(8ハウス)を追い出さなくてはならず、それが終わってようやく欲しいものが手に入る(それまでは欲しいものは病や死の手の中らしい)。

11ハウスからみて5ハウス
 これは180度の関係になるので、これは真ん前に欲しいものを見ながらも、遠く離れていてなかなか手に入らない様子に似ている。欲しいものは分かっているのに、今の望んでいるものを真逆のことを兼ねることになるので、今の望みにいつも仕方なく帰っていくようなことになり、なかなか手に入らず時間がかかるかもしれない。

 ……なるほど、という感じです。アイヴィ・ヤコブソンの例でいくと、望んでいること(11ハウス)は牡牛座なので、たぶん物質的豊かさor お金だとすると、11ハウスルーラー金星は9ハウスにあるので、11ハウスからみて11番目のハウスです。9ハウスは学術あるいは占星術という意味があるので、占星術を通じてお金にも結びついたりがありそうです(詳しい事跡が分からないので何とも云えないのがあれだけど……)。

 でも、9ハウスには太陽・水星もあって、水星はさきに書いたように火星・海王星・冥王星合と60度&火星とミューチュアル・レセプションです。さらに9ハウスカスプは魚座にあって、海王星は水星・火星と結びつきが強くて、木星も10ハウス牡牛座(仕事&お金)にあって……みたいな感じを読んでいくと、幻想的な雰囲気で語る占術の知識がお金に結びつく、という意味はやはりありそうです(2ハウスルーラー太陽も牡羊座でMC合&エグザルテーション、MCルーラーの火星も海王星冥王星と合……色々と濃いですね笑。占星術というより一種の熱っぽい語り口で幻想詩を書く人みたいなホロスコープだと思ったり)。

 すごくどうでもいい話なのですが、この本にはたびたび占星術的解釈を詩で書いたもの(しかも押韻を含む定型詩)が出てきて、それがなかなか味わい深いというか、占星術を離れて詩をして読んでもきれいなものになっていて楽しいので載せてみます。

(ちなみに訳は、あるとき中国の通販サイトで服を買ったときに、服のデザインコンセプトとして載せられていた詩がすごく好みだったので書き留めて置いたら、ヤコブソンの詩によく似た雰囲気なので、意訳verとして載せてます。こういう詩経と楚辞の混ざったような初唐体っぽい感じ、すごく好みです)

Venus, Uranus & Saturn in the 7th House
I met her but a short time since,
Yet knew at once that I
Would hold her ever in my heart,
And love her ’til I die.

有一美人兮、見之不忘。
一日不見兮、思之如狂。
鳳飛翺翔兮、四海求凰。

一人の美しき人ありて、それを見て忘れず。
一日にしてそれを見ず、これを思いて狂う如く
鳳は飛びて翺翔(飛びまわり)、四方の海に凰をさがせり。

 直訳すると、「私はわずかに彼女にあって、会ったのはたったひと時だけだったのに、そのおもかげだけを心に抱いて……」みたいな感じで、これが7ハウスに金星・土星(死すまで忘れず)・天王星(飄忽不定)がある様子みたいな意味、という解釈です。ちなみに鳳凰は、鳳が雄・凰が雌という感じです。

あなたの客人

 4ハウスは家(あるいは基盤)とされていて、そのカスプ(IC)は家のドアになり、そのドアに通じていく3ハウスは近所・地域ということになり、さらにあなたの家への客人は4ハウスのドアにたどり着くために必ず3ハウスを通ることになるので、3ハウスに入っている天体は“あなたの家のドアを叩いている客人”をあらわすらしいです(87~91頁)。

(3ハウスに天体がない人は“あなたの家の周りの様子”としての3ハウスルーラーでもいいかも。近所の人はふだんはどういうところ(ハウス)に居て、どういう雰囲気(天体)か、みたいな感じで読んでみると当たっているかもです。これは想像ですが笑)

 というわけで、十天体がそれぞれどういう客人かを書いているのですが、この表現がどれも詩趣を帯びていて美しい……(今回は削らずに原文通りに訳してみます)。

太陽:太陽は早い時間からやってきて、一日中をあなたの家で過ごし、次の日もやってきてくれるタイプの客人で、あなたの家でもゆっくりと寛いでしまい、さらに嬉しそうに歓待を受けて、みんなにとって良いことについて話したりをしており、彼は喜ばしい客で、凶星に傷つけられていなければ健やかで、しっかりと骨肉も通っていて、おおげさな話ぶりが好きで上位の人になる。来るときは馬車や車でやって来て、帰るときはゆっくりと身支度をして悠長に帰るので、あなたは閉め出すようにドアを閉じたりせずに、楽しそうな顔で彼を見送ること。

:月はいつも同じ時間にやってきたりはないだろうけど、こちらの都合を家族のように考えてくれて、皿洗いを手伝ってくれたり、日々の些事やありふれたこと、家でのことについて話したり、相槌をしたりという人で、もし凶星に傷つけられていると身体か気持ち的に参っていたり、火星とアスペクトがあると手術をすることになっているかもしれない。彼女は嬉しい来客で、わざわざ呼んだりはしなくてもよく、飾り過ぎずにやってきて、帰るときも慌てないけれど、家へのお土産を持って帰ることを思い出したりしながら騒ぎ立てたりせず帰っていく。

水星:水星は居る時間は短く、招待などはされずとも何処かへ行く途中に立ち寄っていく客で、来るときは手紙や書類を届けに来たりすることをあなたに伝えてから寄ることになる。水星は来たと思ったらすぐ帰ってしまう客で、休む暇もなく、さらに歓迎されている時間を超えて残ることをとても気にするタイプでもあり、その話ぶりは物事の様々な面にふれるような話し方になり、もし逆行していると舌足らずな感じになったり、話ぶりが渋くなったり、あるいは同じことを繰り返したりして、さらに土星や天王星とハードアスペクトがあるとかなり弱っているかもしれない。彼は手ぶりも交えつつ伝えたり、帰るときには手を振って別れたかと思うと、そそくさと急ぎ足でどこかに向かったりする。

金星:金星は見た目も美しく、親しげで歓迎するべき客人で、あなたの家におみやげを持って挨拶に来てくれる。会話も楽しく、どんなことについても綺麗に話し、あなたを褒めたり、いろいろなものを持ちあげながら話す。彼女はマナーも良く、あなたの家の犬や猫を撫でたり、子どもを可愛がったりしながら、さらに軽い食事を出してもらったりすると上品にお礼をいったり、帰り際には挨拶としてのキスをするかもしれない。もし逆行していると、金星はちょっと豊満すぎたり、香水がちょっと匂いすぎて部屋に立ち籠めるほどだったり、着飾り過ぎてあらわれたり、あるいは装いの趣味がちょっと良くないかもしれない。

火星:火星は招かれざる客というところで、来るときは騒々しくがちゃがちゃと音を立てながら荒っぽく入ってきて、もしかすると塀から乗り越えるようにして、ドアをがらがらと開けたり、ふざけて家の主人を軽く叩いたりがあるかもしれない。長居することはほとんどなく、一つの話題についてじっと座っていることもほとんどなく、もし逆行していれば病によってさらに気忙しくなって汗をかいたり、傷跡の痛みに苦しんでいたり、その話し声は家の外まで聞こえるほどかもしれない。彼は話しづらいことについても話すし、大胆なのか無礼なのか知れないが、あなたの話すことに逆らったり、歯向かったり遮ったりして物怖じせず、それでいてあなた自身のことについて決めてきたり、彼の流れに話をもって行きたがる。帰り際になるといつまでも居座らずに、溌溂として明るく愛想のいい挨拶をしながら早足で帰ってしまう。

木星:木星は陽気でふっくらとした客人で、招き入れて喜ぶべき人。その来るときは車に乗ってやって来て、部屋に入るなりもっとも座り心地のいい椅子を見つける。彼は祈るような手をしながら座ると、こちらとしても受け入れやすい雰囲気で寄進や奉納・宗教・哲学・旅や娯楽・祭りの曳山などについて話し、こちらの話をさえぎることは滅多にないが最後には道徳に結びつけるような形で締めくくる。食事を出されると存分に味わって、ワインも堪能し、お腹を撫でながら、一口々々を楽しむことを忘れない。もし逆行しているとちょっと肥膿(ふくよか)すぎるかもしれず、さらにアセンダントとハードアスペクトがあると彼の来訪はあなたにかなりの浪費を強いるかもしれない。彼は帰るときは温かいムードであなたに恵みを残していき、あなたはまた彼を呼びたいと思うだろうし、彼も希望と安逸を与えてくれるだろう。

土星:土星は招かれざる客で、来るときは知らせもせず、だいたいは気取られないようにやって来て、しかも招かれている時間を超えて居座り引き延ばし、彼の話し方は酷毒でうんざりさせてきて、棘々と批判的で、反論には反論を返してくるようなところがあって、さらに声は不平げな響きをしている。もし逆行していると、土星は慢性的な病を患っており、歯の状態が悪く爪も痩せている。彼は扱いの難しい人になりがちで、来るときも帰るときもみずからの足であるいている。

天王星:天王星は招かなくてやって来るタイプの客で、現れるときは唐突で、いつもやっていることを遮り、計画も混乱させられる。さらにアセンダントとハードアスペクトだと来てほしくない客になり、彼の話題は科学だったり政事だったり、ある種の宇宙だったりして、通常の話題にあらたな意趣を加えたものになっており、奔放恣肆にして今まで耳慣れないものになる。もし金星と合だったり120度だったりパラレルだったりすると、初めて会って互いに惹きあったり一目惚れのようなことが起こるかもしれず、それ以外の金星とのアスペクトも恋愛的な興味を帯びているかもしれない(プラトニックとは限らない)。天王星はそのときは結婚していないが、その帰ることも唐突で、そのあとに飄忽として好き勝手していたものから免れた感がやってくる。

海王星:海王星は突然招かれてもいないのにやって来て、いつの間にか入り込んでおり、もしかすると裏口のドアから出入りしているのかもしれず、しかも帰るときもいつ帰ると云わないうちにぼんやりと消えるように居なくなっている。その会話は漠然としており、奇妙なこと・不安をそそること・どこかで漂っている噂などについて話しており、あなたを秘密の中に引き込んだと思ったら、その話は途中から虚実綯い交ぜなところがあり、よく分かっていないところや怪しいところが混ざっているかもしれない。もし逆行だと、客人は病気か何かを患って顔を隠して生きているかもしれない。あと、ちょくちょく贈り物を求めてくる。

 ……もはや現代でも通用するくらいクオリティの高い天体のキャラづけだと思いませんか(笑)個人的に、金星逆行の成金マダム感・土星が歩いて帰るというストイックさ・海王星がちょくちょく贈り物を求めてくるメンヘラっぽさ・天王星の口調が奔放恣肆(原文spontaneous)なところ辺りが上手いなぁ……と思ったり。どうでもいいけど、ヤコブソンの海王星を書くときの描写力の高さはすごいと思う(あと、冥王星は元々載ってないので無視したわけではないです)。

 このキャラづけを持っておけば、色々なところでハウスとかに入れてそのまま使えるのでは……と思ったり。これについてヤコブソンの周りにいた客人がどういう感じだったかはちょっと分からないので何とも読めないですが。ちなみに逆行していると、どの天体も「来るのが少々遅くなったり、病気になっていたり、話すべきことのうち一部を隠したままになっていたりする」らしいです。過去に一回おふざけで、全ての天体が体重増加に結びつくみたいなネタを作ってみたことがあるけど(笑)

水星逆行:体重計の目盛りエラー
金星逆行:スイーツの満腹感エラー
火星逆行:怒りによるヤケ食い
木星逆行:発展・増加の方向性がズレる
土星逆行:過剰抑圧によるストレスの暴発
天王星逆行:予期せぬ出来事全般
海王星逆行:かわいいスイーツの暴発流溢
冥王星逆行:生きるための危機による蓄え

 水星逆行は機械内部のエラー、金星逆行は贅を尽くし過ぎ、火星逆行は荒っぽく生活が荒んでいる、木星逆行は弛みすぎ、土星逆行はいままでストイックに生きすぎた反動、天王星逆行はムラ食い、海王星逆行はスイーツ依存症ですね。

 ちなみにヤコブソンはミューチュアル・レセプションになっている二つの天体がどちらも逆行していたら……という詩を書いています。ヤコブソンの解釈では、ミューチュアル・レセプションは元の度数を保ったまま互いにサインを入れ替えて読める、というものの他に、二つの天体は互いにハウスも入れ替えて機能したり、どちらかが陥穽に落ち込んでしまったらもう一方の天体が掬い出してくれるというふうになっていて、行き詰まらないとしています。

 というわけで、ミューチュアル・レセプションの二つの天体がどちらも逆行だったら、という詩です。

 Both Rular Retrograde
They married for companionship
Drawn by human flame,
But nothing came of it at all
And life went on the same.

The magic words of love they sought
And the romantic rapture
Were fantasies that went unwrought,
And dreams too shy to capture.

But that was very long ago –
They saw it through somehow ;
Never to know what made it so –
Unless they know it now ?

その子の帰(とつ)ぎ之くに、交わりは乖く無く迕う無く、
ふたつの游魂の結び合って人の香炎になり
而し筐(かご)には實無く、包(つつみ)には魚なく
日はとうとうと過ぎにけり。

ふたりの欲しがっていた情詞と
嫣紅媚紫の歓びの苑は
あまりにも矯められてない不具の自然で
その夢はふわふわと恥ずかしがって逃げるのです。

でもでもきっと昔には、ふたりは
何故か新しい楼台にて語り合ったこともあったのでしょう。
今がなぜこんなにも蘧篨(ゆがみ曲がって)しまったか
怨憤の元を知らないかぎりわからないのですが。

 ミューチュアル・レセプションとは関係ないけど、「And dreams too shy to capture(その夢はふわふわと恥ずかしがって逃げるのです)」ってかなり捻りの利いた句というか、かなり舌足らずな表現な気がして、このちょっと突兀とした感じはアイヴィ・ヤコブソンの水星逆行(水星は逆行していると「舌足らずな感じになったり、話ぶりが渋くなったり、あるいは同じことを繰り返したり……」)、それが順行火星とミューチュアル・レセプションなので、三章目に入ると急に流れを切るように話が変わるところとか、牡羊&双子座火星の気まぐれさが逆行している水星を置いていってしまった感があって、これはこれで詩として読めば魅力なのかもですが(火星についての記事でも原文はけっこう端折った書き方をしている……)。

うしろの正面

 出生図の土星のあるハウスの一つ先のハウス(アイヴィ・ヤコブソンのホロスコープでは土星は3ハウスなので、一つ先は4ハウス)は、土星(悲観のナチュラルルーラー&12室のジョイ)が或るハウスからみて12番目のハウス(12室は閉じ込めている悲しみ、不安、自己憐憫、諦めのための自己欺瞞etc)に居る、という派生的ハウスを応用した読み方が載っていて(実際は読み方の一例として出ている程度だけど)、これはすごく魅力的な解釈だと思ったので書いていきます。

 土星はホラリー等では悲観的なこと・慎重すぎるなどの意味があって、出生図でも“人生の骨(同書65頁)”のようなものとして解釈したりするので、土星があるハウスは不足・不十分さを感じて、そのハウスで表されることに縛りつけられるようにして時間を無駄にしたり、好きなことから引き剥がすようにして繋纍(つなぎ留め)るようなこと、みたいになります(土星に派生的12ハウスを組み合わせるセンスがすごい……)。

 というわけでそれぞれの例についてなのですが、土星をどのように解釈するかについて載せていきます。

 土星が良いディグニティを得るサイン(山羊座・水瓶座・天秤座)、あるいは地or風のサイン(風はトリプリシティだけど、地はたぶん山羊座からの雰囲気?)、あるいは何かの天体とミューチュアル・レセプションになっていれば、その土星は物柔らかで良い師として、その人が土星のあるハウスで育てるべきものを教えてくれる。一方で、土星が蟹座や牡羊座にあってミューチュアル・レセプションも無い場合、土星は重荷を仕向けてくる人としてあなたを苦しめ、土星の云うことを受け入れるのはかなり辛いことになる。

 土星がペレグリンの場合(ここでは“エッセンシャル・ディグニティがプラス・マイナス共にない状態”)、土星は何処に行くともなく彷徨うようになり、このタイプの土星は何かをするという気持ちを欠いていて最も扱いが難しい。この土星には強いアスペクト(合・90度・180度・45度・135度など。Ascのアスペクトも含む)のある天体や、レシーブのある天体を通じて鼓舞することになる。

 土星が逆行していると、土星の入るハウスで表される物事についてもあなたは十分に得るのが難しくなり、土星が示すことが出来るようになるのはかなり年齢を経た後かもしれない。

 ……という感じなのですが、この雰囲気で読んでいると土星のあるハウスは一つ先にハウスの為の準備期間(一つ先のハウスの不安を抑える為に隠れて密かにすること)みたいな意味になりそうで、実際アイヴィ・ヤコブソンは

 土星がキャデントのハウス(3・6・9・12ハウスのこと)に入っていると、キャデントハウスはその人がみずからの思う通りに動くことを遮る面があり(3ハウスは周囲との関係や瑣末な話に振り回されたり、6ハウスは一人で雑務に追われたり、9ハウスは形になる前の精神的なものをいつまでも求めていたり、12ハウスは薄暗い中で不安に浸りがち等)、自己犠牲的だったり諦念的だったり、あるいは過度に不遇な場に閉じ込められていたりする(キャデントハウス的なことを土星に強いられる為。同書68頁)

のようなことを書いていたりするので、キャデントの土星はアンギュラーハウスの準備をいつまでもさせていて終わらない不安、閉じ込められていたり(6・12ハウス)落ち着かない状態(3・9ハウス)みたいな意味になる、という感じです。

 ハウスを一つの循環として読んでいくこと、土星は悲観・慎重のナチュラルルーラーという面を合わせている感じが、現代の性格診断的な占星術っぽさもありつつ、天体の性質やホラリーらしさも入れているセンスがすごいと思います。

 余談ですが、アイヴィ・ヤコブソンのホロスコープで

土星:天秤座9度  アートギャラリーに掛けられた三枚の近世の名画(3ハウス)
IC:天秤座27度  頭上を飛んでいる飛行機

というサビアンがあるのですが、牡羊座水星と双子座火星って、ややもすると口数が多すぎたり、海冥合と重なったりすると孟浪としてどこか浮かされて瀰漫な感じになりそうなのに、文章の雰囲気はむしろ落ち着いている感があって、怪しげなこともほとんど云わない(エドモンド・ジョーンズなどはかなり怪しいことを云うけど笑)、それでいてどことなく詩的な隠約美も湛えているバランスの良さが魅力的だったりします。

 さらに、天秤座9度の土星は過去の作品から長所を兼采して、さらに土星は3ハウス天秤座なのでバランスよく落ち着いた雰囲気で……という感じが加わっていて、さらにIC(基調・落ち着く場所)のサビアンも全体の多様な様子を観る落ち着き・かなり俯瞰的な天秤座みたいな感じがあるので、熱っぽくなり過ぎないところが読んでいて不安にならないです(笑)

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)の月天王星海王星合だったりします笑。 易・中国文学などについてのブログも書いてます

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