ホラリー占星術

デレク・アップルビー

 最近、Amazonで買ったホラリーの本(買ったのは、デレク・アップルビー著『Horary Astrology The Art of Astrological Divination』という本です)が、ひと通り読み終わったので、それについての感想・魅力などを書いてみます。

簡明なホラリー

 まず、この本の魅力はとにかくホラリーの読み方が簡明に書かれていることだと思います。デレク・アップルビーの読み方は、とりあえずどんな時でも

1:主な意味をもつ天体の状態はいいか(ディグニティをみる)
2:主な意味をもつ天体がこの後どのようなアスペクトを取るか
3:そのアスペクトを邪魔するアスペクトや悪い意味を添える恒星はあるか

という一連の流れになっています。この前読んだアンソニー・ルイス『ホラリー占星術  入門と実践』では

恒星やアラビック・パートなどの多彩な感受点を使う:72頁(テレベルム・フォラーメン・アルヘッカ・カプトアルゴル・プレセぺ・ノースアセラスなどのマイナーな恒星)・76頁(恒星・アラビックパート・ミッドポイントなど)

複雑なルーラー分配:87頁(金星と火星がどちらも家の火事のルーラーになっているときに、金星は既に家のルーラーで、火星は家からみて死の8ハウスにあって火の象徴なので、火星を火のナチュラルルーラーとする)・368頁(盗まれたものに関するハウスに関わる天体が幾つもあって、それぞれが示しているものが少しずつ違うらしい)

関連するハウスを広く用いる:69頁(質問に関わるハウス以外にもその天体が支配しているハウスを広く読む)

トランジット的に読む:76頁(出来事が起こる時間ごとにどのようなアスペクトがそのとき出来ていたかを読む)

伝承や連想的な解釈をする:244頁(水瓶座と山羊座を水陸のサインとするなどやや原始的な発想)、412頁(獅子座のアセンダントで、1ハウスに金星があると獅子について喜びがある)・382頁(ヴィア・コンバスタに月があると、銀色のものが火の中にあるので銀を溶かしているなど)

などのようにかなり色々な技法を紹介していて、眼が眩むような楽しさが味わえるのですが、見るところがいろいろありすぎて初心者には追い付かない感もあって(もっと深いところまで知ってみたいと思わせる魅力はすごいのですが。ちなみにデレク・アップルビーを読んでみたいと思ったきっかけはアンソニー・ルイスなのですが)、一方でデレク・アップルビーは全編にわたって同じ読み方をしながら、その中で少しずつ違う例を入れたりしているので、基本的で軸になる読み方がなんとなくわかるようになります(たぶん。どんな雰囲気かは幾つか載せてみます)。

トランジット的に読む

 まず、デレク・アップルビーの読み方でけっこう特徴的だと思ったのは、トランジット的に天体を動かしながら読む感覚です(その動かし幅がかなり大きい)。

 これは例えば、月(質問者や質問の全体状況をあらわすシグニフィケーター)がそのサインに居るあいだにどのようなアスペクトを取るか、それがソフトなら助けが入るorうまくいく、ハードなら邪魔が入るor失敗するみたいに読んだり、あるいは水星・金星・太陽などのそれなりに動きが速い天体を読むときに使っています。

 ちなみに、トランジット的に読むとトランスレーション・オブ・ライトがけっこう多く見つかるので、既に過ぎたアスペクトでも月があいだに入って繋ぎ直すみたいな展開が結構でてきます。

 というわけで、その読み方の特徴がよく出ている例を一つ載せてみます。

 デレク・アップルビーは大きい醸造所に勤めていたが、そこはあまり楽しくなかった。あるとき、友達のひとりが別の醸造所に勤め始めて、そこが楽しそうだったので、私(アップルビー)はもしそこで人を募集していたら、そっちに移りたいのだが、欠員などは出ていないかと聞いてみると私の求めている仕事に空きがあるらしくて、私は応募してみたい気持ちになった。ただ、上手くいくかわからなかったので、ホラリーチャートを立ててその結果を占ってみた。(9~10頁)

質問:私はその仕事を得られますか?

 アセンダントルーラーの土星は私、仕事は10ハウスなのでカスプルーラーは木星、月は私の副ルーラーです。さらに、仕事の10ハウスで水星・海王星合があるので、それも何かをあらわしています。

 木星(蟹座5度で逆行する仕事のルーラー)は土星(乙女座0度の私)とお互いに近づく60度です。木星は逆行して土星は順行なので、お互いにきれいな60度のアスペクトに近づいていることになって、さらに木星は蟹座でエグザルテーションなので、かなり上手くいきそうです。

 月を読んでみると、月は魚座16度、太陽は蠍座16度です。120度のアスペクトになるのはかなり足りていない感じがありますが、月は一日で13度くらい動いて太陽に追い付けるので、これは120度と読めます。なので、月はその間にハードアスペクトの邪魔も入らずに太陽と120度になって、(デレク・アップルビーは太陽と月の60度or120度はうまくいく兆候としているので)さらにいい兆候が重なります。

 というわけで、この質問の答えは「仕事は得られる」でしょう。(35~36頁)

 まず、この月を13度先の太陽とのアスペクトにするという発想がすごく新しいというか、いままでアスペクトの線で読むことに慣れていたけど、アップルビーはトランジットの流れの中で読むようにしていて、望ましいアスペクトがそのサイン内で出来るか(ホラリーでは或るサイン内でのアスペクトを、そのチャートが示す出来事の一幕としている)、そのアスペクトは邪魔されないかという視点でみています。この本ではホロスコープにアスペクトの線がないのですが、むしろ天体の種類と度数のほうが大事みたいな読み方をしているのかもです。

 ちなみにこの話にはまだ続きがあって、こんな感じになってます。

 私はうまくいく兆しを強く感じたので、その仕事に応募してみた。チャートを立てたのが11月19日、その醸造所に話に呼ばれたのが11月28日で、その場で仕事に通ってしまったので、今の醸造所は12月28日で辞めることを伝えて、新しいところに年明けから入ることになった。

 ところで、10ハウスで水星・海王星の合が起こっているのはこんな顛末に関わっている。まず、私はその場で採用されてしまったので、色々と細かい書類はあとから送ることになって、三日以内には届くと言われてその日は帰ったのだが、十日ほど待っても全然来ない。どういうことかと思って問い合わせてみると、新しい醸造所のほうではもう送ったと言っているが、それでも来ない。結局、私は新しい醸造所に電話して、書類を作ってもらわねばならなかった。どうやら書類についての混乱(水星・海王星合)があったらしく、私はつぎの仕事が決まらないまま、今の醸造所をやめてしまったのかと不安になったときがあった(その不安は実現せずに済んだが)。(36~37頁)

 この話は少しつぎの話題にもかかわってくるので、そこで書いていきます。

トランスサタニアンはルーラーにならない

 デレク・アップルビーは、魚座のルーラーは木星のみで、海王星はルーラーとしない……などのように、トランスサタニアンはルーラーとしない読み方をしています。

 でも、チャートの中にはトランスサタニアンを入れて作っているので、その影響も含めて読んでいます。どのように読んでいるかというと、なんとなく一読した感じでは「遊行する気まぐれな神」みたいな雰囲気でトランスサタニアンは出てきている印象です。
(この前読んだアンソニー・ルイスは、「基本的には人間の力を超えた凶星だけど(110頁)、天王星はコンピューター、海王星は映画、冥王星は精神分析など、より現代的なことについてはルーラーとして可い(164頁)」という感じだった)

 トランスサタニアンが基本的に凶星なのは、さきの書類の混乱(水星・海王星合)でもなんとなくわかりますが、さらに「太陽や月が火星と120度になる前に、どちらも海王星との90度を経なければならず、海王星のハードは混乱や不安を生み出す(46頁)」のようになっていたりします。

 もっとも、今もっている株を売るべきか悩んでいる人に「ホラリーチャートの太陽(金のナチュラルルーラー)が、プログレスでホラリーチャートの海王星と合になったときに、海王星のドラッグ的で化学薬品的な膨脹にあわせるようにして、売りたければ売るといい(60頁)」みたいに読んだりしているので、トランスサタニアンは気まぐれにいい方に動くこともあります。

 ということで、トランスサタニアンが気まぐれに助けてくれているような占例を載せてみます。

質問:私の封筒はみつかりますか?

 質問者は月、失くしたのは書類なので3ハウスとすると、カスプルーラーは牡牛座太陽だけど、あまり書類っぽくないので、ここでは書類のナチュラルルーラー水星で読みます。

 水星は牡羊座にあって、冥王星と180度、海王星と120度、金星と60度、火星と120度の順でアスペクトしていきます。冥王星を除いては、かなりいいアスペクトが揃っている気がします。

 月(失し物の副ルーラー)は、土星との合から離れて、POFと60度、天王星と120度に近づいています。なんとなくトランスサタニアン(天王星と海王星)が助けてくれている感じが漂っています。ちなみにPOFは失し物のナチュラルルーラーです。

 とりあえず、牡羊座に水星があるので東にいってみます。火星座なので、壁の近くor中くらいの高さ(82・163頁)らしいです。なので、東側の壁で中くらいの高さのところを探してみると、その封筒は東の壁にあった眼の高さくらいの本棚で、占星術の本の中にあって、さらにその本棚は水槽の上にあって、その下にはポンプやライトがあったので、その本棚は少し暖かくなっていたらしいです。(165~166頁)

 これは、水星(書類)が海王星(水槽・魚)、金星(キラキラした物)、火星(熱)と近づいて、さらに月は蠍座天王星(水に関わる機械:ポンプ)と近づき、さらに占星術の本(水瓶座は占星術に関わる)……みたいになっていて、その不思議な運命(冥王星)に驚くという組み合わせです。

 これはデレク・アップルビーの本の中でもかなり好きな占例だったりするのですが、トランスサタニアンが気まぐれに味方するとき、みたいな雰囲気も出ています。

ハウスのディグニティ化

 デレク・アップルビーの解釈で特に独特だと思ったのが、ハウスがほとんどエッセンシャル・ディグニティ化しているような読み方です。

 ハウスは1or10ハウスにあると良くて、6・8・12ハウスにあると凶(それぞれ病気・死・幽閉のハウス)みたいにディグニティに関わってきますが、デレク・アップルビーはそれとは別に

 土星はこのチャートではみずからの第10ハウスに入っており、とても力がある(55頁)

 金星はお金の問題のナチュラルルーラーでもあり、みずからのハウスにあたる2ハウス(牡牛座のハウス)にあって、さらに天秤座でもあるので、とても力がある状態で置かれている(59頁)

 木星は蟹座9ハウスにあるので、サインとハウスどちらからも強められていて(92頁)

 土星は天秤座でエグザルテーション、天秤座木星はみずからの9ハウスに入っているのでそれぞれ力があって、……土星は山羊座(10ハウスのナチュラルサイン)に関わっていて、この質問は地位(10ハウス)の質問なので、この状況によく合っている(139頁)

などのように、ある意味でサインとハウスを混同している読み方をしています。

ミューチュアル・レセプションの効果

 デレク・アップルビーはミューチュアル・レセプションをかなりの吉兆として読んでいて、どのくらい吉兆なのかというと

 牡羊座の月と蟹座の火星はミューチュアル・レセプションなので、この二つはスクエアだとしてもミューチュアル・レセプションによってソフト化する(この記事での引用部は、どれも大意訳です。71頁)

 4ハウスの蠍座24度火星と10ハウスの牡牛座25度木星は、4ハウスを蟹座(木星のエグザルテーション)、10ハウスを山羊座(火星のエグザルテーション)と読んだ場合、それぞれハウスのエグザルテーションでミューチュアル・レセプションになっていて、ハードアスペクトだけど上手くいくことになる(141頁)

などのように読んでいて、二つめはハウスのエッセンシャル・ディグニティ化を含んでいるのですが、ミューチュアル・レセプションの場合はハードアスペクトもソフト化する、みたいな解釈になっています。

 ミューチュアル・レセプションについては、アンソニー・ルイス『ホラリー占星術  入門と実践』では

ボナタスは「レセプションは全ての悪を和らげる」と言っています。……占星術家の中にはミューチュアル・レセプションが惑星のステイタスの交換をもたらすと信じている人もいます。天体はそれぞれのサイン、エギザルテーション、トリプリシティ、ターム、フェイスに戻ると読めるかもしれません。アイヴィ・ヤコブソンは言っています。それぞれが自身のディグニティに戻ると読めるときは、もともといた場所にとどまっているのだ、と(この記事を読んだりすると、今の度数=今の場所のままでみずからのディグニティに戻るの意味になっています。「The Heart of the Mother」の章にあります)。オリヴィア・バークレーなどは、星座とともに度数を交換するのだ、としています。(175頁)

のようになっています。

 ところで、さっき引用した部分では、ミューチュアル・レセプションの天体はお互いにみずからのドミサイルorエグザルテーションに戻ったときは、アイヴィ・ヤコブソンによると度数は今のままでサインだけ入れかわる(牡牛座7度水星と双子座15度金星のミューチュアル・レセプションは、牡牛座15度金星・双子座7度水星のように読める)、オリヴィア・バークレーによると度数もサインも入れかわる(牡牛座7度水星と双子座15度金星のミューチュアル・レセプションは、牡牛座7度金星・双子座15度水星のように読む)みたいにけっこう割れているのですが、デレク・アップルビーはヤコブソン派です。

この記事を読んで知ったのですが)アイヴィ・ヤコブソン―デレク・アップルビー―オリヴィア・バークレーという順でホラリーの大家が出る中で、この読み方はアイヴィ・ヤコブソンから出ているらしいのですが、デレク・アップルビーはこれを一種の逃げ技・別の選択肢などのように使っています。(ちなみに、デレク・アップルビーはアイヴィ・ヤコブソンの本でホラリーを学び始めたとあとがきで書いています)

(元夫と再婚するべきか聞かれたときに)11ハウス乙女座23度の月(質問者)は、牡牛座26度の太陽(元夫)と120度に近づいています。アセンダントルーラー(質問者)の金星は双子座24度、11ハウスルーラー(希望のルーラー)の水星は牡牛座1度です。

 ここではまず、金星と水星がミューチュアル・レセプションになっています。度数は同じまま、サインを入れ替えるので、金星は牡牛座24度、水星は双子座1度になって、金星(質問者)は元夫によるコンバスト、さらに牡牛座26度カプトアルゴル(暴力や火災)と合なので、あまりよくないらしいです。

 さらに月(牡牛座でエグザルテーション)と水星もミューチュアル・レセプションです。月は牡牛座23度に来るのですが、これもコンバストです。カプトアルゴルからは3度ほど離れていますが(ウィリアム・リリーはアルゴルの前後5度は凶としている)、アルゴルを読んでも読まなくても良くない……。

 一方で、アセンダントは天秤座22度なので吉星スピカと合で、POFや土星ともソフトアスペクトだったりと、今のままのほうが良いようにも思える……(75頁)

 この例は、途中まで読んでミューチュアル・レセプションが出てきて再婚していいと脳内で大きく言ったあとに結果を読んで慌てたのですが(とてもぞっとした)、ミューチュアル・レセプションで元夫と近づくという別の選択肢みたいに読んでいます。

(ある人と結婚するべきか悩んでいる人に質問されて、その結婚はどうやら凶だけど、その人は結婚するつもりらしいときに)質問者の副ルーラー月は蠍座18度にあって、蠍座19度のサーペンティス(すべてが駄目になる最凶の度数)に合ですが、11ハウスの蟹座0度火星とミューチュアル・レセプションです。

 この人との結婚に不安を感じたら、別の人(おそらく11ハウスなので友人)が関わるときに、この結婚は反故になって、悪い結果から逃れることにはなりそうです。その場合、月は蟹座18度に行くので、蟹座26度の土星に近づいて話は頓挫するでしょうが、サーペンティスに捕まるよりはいいかもしれません(90頁)

 これはミューチュアル・レセプションで別の選択肢を選んだときの逃げ道みたいに使っています。この読み方は、ミューチュアル・レセプションでお互いに入れ替わると、別の場所に逃げたり行ったりすることになって、その先に何があるのかをみたりするような使い方らしいです。デレク・アップルビーのホラリーはアセンダントが初期度数だったり末期度数だったり、月がヴィア・コンバスタにあったり、かなり凶の意味が強くても、それでも上手くいく方法を探したり、逃げられる方法はあるか考えるところに一つの魅力があるような気がして、一つのチャートから横に逃げたり、裏に抜けたりみたいな読みをけっこうみます(アップルビーは、アセンダント双子座、太陽水瓶座なので、あの手この手で端倪できず……みたいな話ぶりだったのかも。ちなみに、この本にはときどき質問者の12星座占いをホラリーの中に入れて読む……みたいなことをやっていて、それがすごく面白いです。この雑然としている感じが「俗なる占星術」の多彩な魅力でもあって好きです。「俗」の字は、民俗・習俗の俗みたいに、ハウスとサインが混同されたり、トランスサタニアンが気まぐれに守ってくれたり、12星座占いが入ってきたり、多彩多端にして詭誕不経な意味の重なり合いっぽさがある)。

 もっとも、ハウスのエッセンシャル・ディグニティによるミューチュアル・レセプション(片仮名がめっちゃ並ぶけど、この語感のようにちょっと怪しくて不思議な技だと思う笑)に頼り過ぎてはずした例も載っていて、デレク・アップルビー本人も

 太陽は射手座で5ハウス(獅子座のナチュラルハウス)、月は乙女座で2ハウス(月のエグザルテーションの牡牛座のナチュラルハウス)なので、これは一種のミューチュアル・レセプションと見做していた。ただ、このような読み方はちょっと大胆に過ぎたかも知れず、こういう読み方は必ずしも意味がないわけではないが、すべてをそれに依って読んでしまうのは危ない面がある(95~96頁)

のように書いていて(太陽5ハウス・月2ハウスってミューチュアル・レセプションでもないと思うけど)、ハウスのエッセンシャル・ディグニティは他の面でもいい象意があるときにさらに添えるような感覚で読むといい、みたいにしています。

(もっとも、アンソニー・ルイス『ホラリー占星術  入門と実践』でも、たまにハウスをエッセンシャル・ディグニティのように読んでいる例もあるけど、デレク・アップルビーと比べるとかなり頻度も低くて、占断の中での重みもずっと小さい傍証のようになっています。でも、デレク・アップルビーが触れていないところでも、ハウスのエッセンシャル・ディグニティは上手くいくときには結構出てきます。なので、傍証としてはすごくいい気がするのですが)

自分で読んでみる余地が残されている

 これは意外な魅力なのですが、デレク・アップルビーは一つの占断をけっこう簡約にまとめているので、別の読み方をそれぞれで考えて楽しむという遊び方もできます。たとえばこんな感じです。

質問:物を盗ったのは私の子でしょうか?

 質問者は自分の物が無くなっているのに気がついて、もしかすると自分の子が勝手に売ってしまったのではと疑って、ホラリーのチャートを立ててもらいに来た。

 これについては、質問者を月(アセンダントルーラー)、盗んだ者を土星(7ハウスルーラー)、質問者の物も月(2ハウスルーラー)として占います。

 まず、盗んだ人をあらわす土星は、質問者にとって子どもをあらわす5ハウスのカスプに重なるようにあります。さらに、失なった物のナチュラルルーラーのPOFが2ハウス(財のハウス)にあって、盗んだ人をあらわす金星がPOFと60度のセパレートです。これは盗んだ人がPOFを掠めるように通っていく様子にも似ている(170頁)

 これはずんぶん簡約に書かれているけど、チャートをみながら別の解釈を探してみると、5ハウスルーラー(質問者の子ども)の金星は12ハウス牡牛座にいて、12ハウスは質問者にとって見えないところです。さらにサインはドミサイル、ハウスはエグザルテーション(12ハウスは魚座のナチュラルハウス)なので、逃竄した先でディグニティも高いと読めそうです。

 一方で、月(質問者のルーラー)はインターセプトされているので、外の様子が窺えない(月を失し物のナチュラルルーラーとすれば12ハウスに隠されたとも読める)……みたいに色々な方法で読んでもそうなる感じがわかります。

 もうひとつ、これもみていて別の解釈が出てきて楽しかったです(或る程度読んでいると、主要な天体のサインと度数をみればなんとなく上手くいきそうか否かは大体わかるようになってくる感があります……)

 質問者は夫・娘とともに公営住宅に住んでいて、寝室もふたつあって広さも十分だったのだが、夫が喘息が重くなって、寝室を分けたほうが良いことになったので、質問者は別の公営住宅を見て、そこがかなり良く思えたので、住宅担当(公営住宅なのでおそらく市役所?)に入居の相談にいくと、夫の喘息についての診断があるのに断られてしまった。

 なので、質問者の夫はそういう方面の委員会に話を通して、どうにか入居できるように手を尽していたが、その委員会で話がされているあいだに私(アップルビー)に質問が来た。

質問:私は新しい家が手に入るでしょうか?

 ホラリー占星術では、家は4ハウスであらわすので家のルーラーは火星、火星は牡羊座にいて強いです。アセンダントルーラー(質問者)は太陽なので、火星と太陽の間にアスペクトはないですが、月(質問者の副ルーラー)は木星と90度、太陽と120度になるので、木星は本来吉星だとすると、それほど悪いことにはならないと思われて、月と太陽のソフトアスペクトはかなり強い吉兆なので、新しい家に住めるらしいです。

 さらに、月(質問者)が太陽と120度になって上手くいくのは、太陽がMC近くにあることから太陽の象意で「地位のある人(地位のある人)」かもしれない、おそらく委員会の議長が味方になってくれるお蔭で新しい家に移ることができるのだろう、と読めそうです。

 この占断を質問者に伝えようとしたとき、私が結果を伝える前に、質問者は新しい家に移ることになったと教えてくれた。ちなみに、質問者から聞いた話だと、どうやらもっと優先してその公営住宅に住むべき人が居たのだが、その公営住宅があまりにも「poor decorative(装飾性に乏しい)」ことを嫌がって入居しなかったので、質問者に話がまわってきた……という背景があるらしくて、私は「poor decorative」という理由がとても気に入っている。月(質問者とともに全体の状況)は、まず天秤座で逆行する木星と90度を経たのち、太陽と120度になって成就するのだが、「天秤座(装飾性)で逆行する木星(拡大が逆に行く)」。(128~130頁)

 これはデレク・アップルビーの解釈がすごく魅力的です。ホラリーの魅力は天体やサイン、ハウスの象意がとても多彩な比喩のように出てくる楽しさも含まれている気がするのですが、それとは別にチャートをみながら最初に思いついた読み方はこんな感じです。

 まず、アンソニー・ルイスの本で「(ボイドについて)リリーの方法では、ボイド・オブ・コースの状態というのは、その天体が他の天体と取るメジャー・アスペクトのオーブ内にないことでした。……リリーの定義だと、サインの終わりの位置にある天体や月が、次のサインに移ったときに正確なメジャー・アスペクトのオーブ内に入る場合は、ボイド・オブ・コースではありません(124頁)」とあって、ここでいうオーブは天体がアスペクトを作れる直径みたいなもので、月はその直径が12度くらいなので、両側6度にある天体とはすべて合、みたいになります。

 なので、ウィリアム・リリーはある意味アウトオブサインのアスペクトもできると捉えていて(たぶんです。この辺は俄かなので間違っているかも)、もしリリーがこのチャートをみせられたら

 太陽(質問者)は、既に火星(家)との合から離れつつある。しかし、月(質問者or全体の状況)は、まず火星と120度になっており、さらにオーブの中に太陽を入れたままサインを移ることになって、そのまま太陽と120度を完成させる。ちなみに間に11ハウスルーラー(希望のルーラー)でもある水星が火星・太陽と相次いで合になるので、希望(水星)は一度は家(火星)と質問者(太陽)を結びつけている(どちらもトランスレーション・オブ・ライトです)。

 もっとも、月はそのあいだに天秤座で逆行する木星にも90度で当たるので、何かにぶつかることはあっても、それは太陽からみて150度のサインなので、質問者のみえないところでの出来事。天秤座の初期にある木星は、牡羊座末期の火星とサイン間の180度を為したと思うと、すぐに火星は牡牛座に入ってしまうので、家(火星)と木星(質問者を妨げる人)は150度でお互いに見えないところにいってしまう。

みたいに読むかもです(いい加減なこと書きすぎだけど……)。

その他

 それ以外にも面白かったところは幾つかあって、例えば土地や家の売り買いについての質問が来たときには、4ハウスのルーラーor在室天体は土地の様子をあらわすという話で、

 4ハウスカスプが、火星座だと高くて山のようになっている土地、地星座だと平坦で土の質が良い、風星座だとうねうねとうねっている土地、水星座だと低くて湿っている水の側の土地のようになる(122頁)

(さらに土地の状態を深く読むと)ディグニティの悪い土星が4ハウスの火サインに入っていると、その土地は乾いていて石がごろごろしている、ディグニティのいい木星が4ハウスで地星座にあると、肥沃な土地になっている。(122頁)

(その土地は地下水脈の上にあったので、ぐちょぐちょと湿っていて)4ハウスに在室天体は無し、4ハウスルーラーは火星で、火星は天秤座にあってデトリメントなので、風星座(湿っている)のデトリメント火星(乾かす力が弱い)なので、湿気がすごい……(こういうふうに書いてあるわけではないけど、128頁あたりにそういうチャートがあります)

みたいな例が載っています。あと、地味に面白かったのが、この前思いつきで書いた8ハウスについての記事で「蟹座(4室)の水は色が明るくて飲める、蠍座(8室)の水はじとじとしていて色が暗い印象(たぶん飲むと毒がある)」「蠍座は未整備でごたごたと葦や古杭が立ち並んで廃材だらけで泥が滀まっているべとべとした低湿地、魚座は閑散としていて何もなく、堤防の陰に囲まれて人目につかない田んぼみたいな雰囲気」とか書いたのですが、デレク・アップルビーも

蟹座は澄んでいて流れている水、蠍座は濁っていて汚れている水、魚座は停滞している水or水以外の液体(164頁)

と書いていて、いい加減なこと書いた記事だけど意外と当たったかも、みたいに思ってます。

 あと、全体的な印象なのですが、デレク・アップルビーは意外とホラリーの読み方がどこか楽観的というか、これだけ無理そうなものが出てきたら絶対無理そう……みたいなときでも、どこかに上手くいく方法を探すような読み方をしている気がします(個人的に101頁・140頁あたりのチャートは無理と云ってしまいそうなくらい悪い気がする……)。

 ちなみに、内容に関係ない話なのですが、この本の英語はすごく読みやすいです。ホラリーの大体の読み方を知っている状態で読めば、ほとんど難しい語彙などもなく、するする読める感があります。占例の中には、アップルビーの友情(151頁。友達のことを思って作ったチャート)や悩み(127頁。依頼人の質問だけに答えるようにしていたけど、余計なことでも云うべきだったのかもという気持ち)、怖さ(74頁。人間は完全に幸せになれないのかもしれないけど、それを求めてしまう無力さ)なども書いてあって、ホラリーの楽しさと怖さが両方味わえるのも、この本の魅力だったりするのですが(そういうチャートがあると知ると、ホロスコープの読み方がなんとなく詩的で悲哀を孕んだものにもみえてきて、ホラリーの比喩の豊かさはとても美しいと思うけど)。

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)の月天王星海王星合だったりします笑。 易・中国文学などについてのブログも書いてます

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