ホラリー占星術

『ホラリー占星術  入門と実践』

 このブログでも度々話題にしている『ホラリー占星術  入門と実践』(アンソニー・ルイス著、鏡リュウジ先生訳)なのですが、占星術を始めて一年くらいの身でこんなこと云うのも畏れ多いのですが、個人的には読んでみてとても質の高い(密度の濃い)本で、(占星術にわか勢がそんなこと書くのも畏れ多いのですが)どこが魅力的かを紹介する記事を書いてみます。

(とても内容が深いと思っているのですが、最初の一冊にはおすすめできないタイプの本です。一応、天体・サイン・ハウス・アスペクト・ネイタルとトランジットの意味がわかるくらいの状態で読むと、すごく奥深くて魅力的すぎるのですが、それでもかなり難しくて深すぎる……)

アストロロジー・ジョーク

 いきなり本の内容とは関係ないのですが、この本には度々「アストロロジー・ジョーク(占星術的ジョーク)」が出てきて、それがなかなか秀逸で楽しいです。例えばこんな感じです。

アルキュオネ:双子座0度

 メドゥーサの頭(牡牛座26度のカプト・アルゴル)からさほど遠くない場所にあるのが、プレアデス星団のアルキュオネ、別名「泣き続ける姉妹たち」です。きっとメドゥーサが頭を切り落とされたので、彼女は泣いているのでしょう。どんな理由であれ、あなたのシグニフィケーター(天体やASCなどの感受点)がアルキュオネとコンジャンクションすると、あなたが泣きたくなるようなことが起こるはずです。(317頁)

最大の敵は自分自身:獅子座22度

 獅子座22度は、恒星ではありませんが、どうやら凶の度数のようです。これは無様な姿をさらけだし、自分の利益のためになる働きができなくなることを表しています。ほとんどの人は天からの助けがなくても、こんなことはうまくやってのけるので、このような度数を考慮する必要があるのかどうか疑問に思っています。その一方で、私(著者アンソニー・ルイス氏)のネイタルの水星はこの度数に近く、妻が言うには私は口を滑らす傾向があるようなので、きっと関係があるのでしょう。(318頁)

 パートは、ホロスコープ上の重要なポイントです。これはアラビア人が文献に記すはるか以前から存在しているので、「アラビック・パート」という用語は、ある意味で間違った呼び名といえます。「アラビック」という名前がついたのは、8~9世紀のアラビア人占星術家が、バビロニア人やエジプト人、ギリシャ人の占星術家から受け継いだパートを調子に乗って使いすぎたからです。……

 アラビア人が調子に乗って新しいパートを発明したというのも、まんざら冗談ではないのです。彼らが考え出したパートをいくつかご紹介しましょう。大麦のパート、豆のパート、それからタマネギ、レンズ豆、米、ごま、砂糖、ナツメヤシ、ハチミツ、ワイン、生糸、塩漬け、辛い食べ物、甘い薬、免職、辞職、迷子になった動物、訴訟、拷問、打ち首、雲……(略)……などさまざまなパートがあります。もしあなたが、食料品を入れた買い物袋をなくしたとしたら、これらの多くが役に立つことでしょう。(320頁)

コンバスト、カジミ、アンダー・ザ・サンビーム

 アラブ人はこのルールがお気に入りだったでしょう。あの人たちは真昼の灼熱の太陽の下で占星術に取り組んだのですから。ボナタス(13世紀イタリアの占星術家)は言っています。「太陽との実体的コンジャンクションは、天体に降りかかり得る最凶の不幸である」。

(ホラリー占星術では、3ハウス:兄弟、8ハウス:死としたときに「兄弟の死」は「3ハウスからみて8ハウス」の10ハウスとするようなデリヴァティブ・ハウス(派生的ハウス)という技法があって)

 ここでお遊びとして……。メル・ブルックス監督の映画『スペースボール』に、こんな例があります。映画の最後で、ローン・スターがダーク・ヘルメットと戦うシーンで、ダーク・ヘルメットはこう言うのです。「私は、お前の父親の弟の甥のいとこの元ルームメイトだ」
「つまり俺たちの関係は何なんだ?」ローン・スターは聞いた。
「何でもない」

 占星術なら、彼らの関係について何と言わなければならないか見てみましょう。質問者の父親の弟の甥のいとこの元ルームメイトはどのハウスでしょう?質問者は第1ハウスです。その父親は第4ハウス。父親の弟は第4ハウスから数えて3番目だから第6ハウス。父親の弟の甥は、父親の弟の兄弟の子供。父親の弟の兄弟は第6ハウスから3番目だから第8ハウス。その兄弟の子供は第8ハウスから5番目だから第12ハウス。

 今、甥のところまで来ました。甥のいとこは第12ハウスから3番目だから、第2ハウス。いとこのことは3番目のハウスで見るからです。もし母方か父方かわかっていれば、もっと明確なハウスを見つけられます。母方のいとこなら第4ハウス、父方のいとこなら第10ハウスで見るのです。

 ここではいとこが母方か父方かわからないので、一般的な親族を表す3番目のハウスを使います。最後にルームメイトはいとこから7番目、つまり第2ハウスから7番目のハウスなので、第8ハウスになります。付き合いはあるけれども親族ではない人は第7ハウスで見るのです。ダーク・ヘルメットはローン・スターに第8ハウスで表される関係をもたらしました。第8ハウスが象徴する死はこのシーンに合っています。というのも、ここはまさに、ダーク・ヘルメットがローン・スターを殺そうとするシーンだからです。(95頁)

(失せ物占でシグニフィケーターがそれぞれの星座に入ったときに、どこにあるかの例として)
蠍座:ごみの中、道に迷う、医のを奪われる、水の近く、ごみの近く、害虫と爬虫類が繁殖する場所、這って進む動物の生息地、沼地、湿地、ゴキブリがはびこっている場所、配管系統の近く、台所、洗面所、トイレ、浴室、墓地、死に関する場所、悪臭のする澱んだ水の近く、洪水の影響を受ける場所、湿ってかび臭い場所、地下トンネル、秘密の引き出し、秘密の出入り口……(303頁。ジョークではないけど、語彙が豊かすぎる)

 こんな感じで、それぞれなかなか秀逸だと思ってます。

古典占星術の理論が少しわかる

 古典占星術はなんとなく取っつきにくい……という印象があったのですが(あるいは、にわか勢にはまだ早いとも思っていた)、この本を読んでみると古典占星術の理論が少しわかるようになる気がします。例えば、

 ドミサイル・エグザルテーション・フォール・デトリメントくらいは何となく知っていたけど、さらにトリプリシティ・ターム・デカン等があって、或る度数ではドミサイル以上に状態がいい天体ができること(アルムーテン)もある等、サインの中に多くの天体の勢力圏が雑居していてる感じがわかる

 多彩なミューチュアル・レセプションがあって、例えば「月は土星のサインである水瓶座にあります(土星は水瓶座の伝統的なルーラーです。)土星は月がエギザルテーションする牡牛座にあります。月と土星はミューチュアル・レセプションなのです。月が魚座を通ったとき、魚座の中の土星のフェイス(第一デカン)に入ります。ミューチュアル・レセプションは、このときサイン(水瓶座月と牡牛座土星)でもフェイス(魚座第一デカン月と牡牛座土星)でも成立することになり、月と土星のセクスタイルの意味にこだわりを持たせ、力を増します」のように、多重のミューチュアル・レセプションが成り立つという視点はすごく驚きました(いままでドミサイル同士だけかと思っていた)。

 トランスレーション・オブ・ライト、レフラネーションなどのアスペクトのオーブを時系列で読む感覚がわかる気がする(ホラリーでは、或る天体は~の象徴、もう一つの天体は…の象徴のようにして、その二つの天体の関係から邪魔するor援けるなどを読むので、この二つが援けあうときはソフトアスペクト、背き合うときはハードアスペクト、ぎりぎりアスペクトができないときは何か起こりそうで起こらない等の読み方が出てきて、時系列で~と…の関係が良くなりかけたところで○○が妨げになって……的な一種の原始的な想像力みたいな雰囲気です)

 ナチュラルサイン、ナチュラルハウスの感覚がわかると、解釈の傍証になるような気がする。例えば
「木星は、第12ハウスで表される大型動物や野生動物のナチュラル・ルーラー(411頁)」
という部分は、307頁の魚座の象意一覧には「大型動物・野生動物」は無くて、51頁・281頁の12ハウスの象意一覧にあるので、「木星―魚座―12ハウス」と繋いでいるのがわかります。

 さらに
「水瓶座が上昇しているので(ASCにあるので)、私のプライマリー・ルーラーは土星、副ルーラーは天王星になります。どちらも占星術を司る第11ハウス、山羊座で逆行しています(421頁)」
も、11ハウスの象意一覧(51頁・276頁)には「占星術」は無いですが、水瓶座の象意(306頁)にはあります。

 この例はあまり確信はないのですが、
「木星(紛失物のシグニフィケーター)は品位の高い蟹座(エグザルテーション)に位置し、火のハウスである第5ハウスにうまく収まっています(369頁)」
では、わざわざ「火のハウスである第5ハウス」と書いているのが気になるところで、ウィリアム・リリーの点数表(203~204頁)では第5ハウスは3点プラスになっているけど、ハウスのナチュラルサインのエレメントについては特に何も書いてなくて、もしかするとトリプシティについて
「太陽が昼(のチャート)の火のサインを支配し、木星が夜の火のサインを支配します。金星が昼の地のサインを支配し、月が夜の地のサインを支配します。土星が昼の風のサインを、水星は夜の風のサインを支配します。火星は昼と夜、両方の水のサインを支配します(198頁)」
に基づいて、369頁のチャートは昼のチャートなのですが、それでも木星は火の星座を相性がいいので、獅子座のナチュラルハウス(5ハウス)でも調子がいい……みたいな解釈だと思っています。

 こんな感じで、ナチュラルサイン・ナチュラルハウスの感覚があると、天体の様子をより深く感じられる気がしてきます。(この記事で書いたように、ハウスとサインの象意が同じになることもある。尤も、この本の著者は現代占星術も折衷する派のホラリーです)

 恒星、ヴィア・コンバスタ、アラビックパートなどを使っている例が見られて、それらをどのように解釈に統合しているかがわかる気がする(今までは混乱するだけだから……と避けていたけど、全部の理論を使っているわけではなく、解釈に悩むときに様々な面からみて解釈を傍証していくように使っている例が多かった)。

などのように、上にあげた例には古典以外の要素も入っているかもしれないけど、古典占星術の理論をどのように混ぜていくかがわかってくる感じも楽しいです。

解釈の統合がわかる

 そんな感じで、解釈の深みが一気に上がるような本なのですが、どの例もそれぞれ面白い中で、個人的に幾つか印象的だったものを引用してみます(あまり載せすぎてしまうと問題かもしれないのですが、四つくらいなら大丈夫だと思いたい……。あと、ホロスコープが写真なのは、Astrodienstで出そうとしたけど、太陽の度数は合っているのに月・ASCがかなりずれて、設定が違うのかも知れないけど、うまく出せなかったので……という感じです)。

 まずはこれです。喩えの使い方が古めかしくて好み。

質問:子ライオンはなつくだろうか?

 これはエジプトのアレキサンドリアでパルコス(ヘレニズム時代の占星術家)が分析したもので……典型的な5世紀のホラリーの質問です。質問者は大金をつぎ込んで新しいペットを買う前に、子ライオンを飼い慣らせるかどうか知ろうとしました。……

 5世紀のルールを用いたパルコスは、獅子座2度のアセンダントが子ライオンに関する質問にうまく適合していると主張しました。金星が第1ハウスの獅子座で上昇し、木星は喜びを得る善い神霊の第11ハウスに位置しています。この2つの吉星のハウス位置から、ライオンはなつくと考えました。さらに、質問者の副ルーラーである月が、質問者のペット(第6ハウス)のプライマリー・ルーラーである木星とじきにトラインを作ります。木星は、第12ハウスで表される大型動物や野生動物のナチュラルルーラーでもあります。パルコスは、月と(彼の計算上の)パート・オブ・フォーチュンが、西に没しようとする水の性質を持つサインの水瓶座に入っていたことから、ライオンは船で外国に行くだろうと言っています。……

 コンピューターのチャートでは、魚座2度にパート・オブ・フォーチュンがあります。パルコスは入手した情報を基に自らパート・オブ・フォーチュンを算出しています。5世紀の計算では、パート・オブ・フォーチュンは水瓶座28度に位置しました。パルコスは、月が第1ハウスの金星(月の送り手)とのオポジションから離れたばかりで、第11ハウスの双子座(旅行)にある長期旅行のナチュラルルーラーである木星(月の迎え手)とのトラインを形成しようとしていることから、ライオンが外国にいくと考えたのです。(411~413頁)

 このチャートは、古代らしい奇怪さと茫洋とした感じが魅力的なのですが、短いリーディングで何重にも意味を取っていく雰囲気はとてもホラリーらしくて味わい深いと思ってます。

 まず、月については

 ホラリー占星術において、月は質問を取り巻く状況をいろいろな精度で指し示してくれるものとして、非常に重要です。主たるシグニフィケーターが答えを見せてくれないときに、月は質問者や質問そのものの第2のシグニフィケーターとなってくれます。ハウスのルーラーが使えなかったときも月がバックアップしてくれます。(92頁)

 最も速い天体である月は、問題の全般的状況と質問に関わる日常的な変化を表現(176頁)

とあって、月については二通りの読み方があるのですが、このチャートでは「月=質問者」のときは「質問者の副ルーラーである月が、質問者のペット(第6ハウス)のプライマリー・ルーラーである木星とじきにトライン」なので、質問者とペットのルーラーは近いうちに結ばれると読んでいて、「月=質問の全体的な状況」のときは「月が第1ハウス(獅子座)の金星とのオポジションから離れたばかりで、第11ハウスの双子座(旅行)にある長期旅行のナチュラルルーラーである木星とのトラインを形成」するので、子ライオンが船に乗って送られてくると読んでいます。(占星術を始めた頃は、個人的には一つの天体は一つの意味だと思っていたけど、むしろ曖昧で茫漠と重なり合っている中で幾重にも含まれている意味を重んじる感覚になる)

 あと、水瓶座の意味については

 マニリウス(ローマ時代の詩人)は、キリストの時代の占星術的な言い伝えを蒐集し、棲息地によるサインの分類を行いました。彼の記述によると、蟹座と魚座は水のサインです。なぜならカニも魚も水の中に住んでいるからです。牡羊座、牡牛座、獅子座、蠍座は陸地、大地のサイン。これらのサインは地面を歩く生き物だからです。マニリウスは双子座、乙女座、天秤座、射手座を地のサインには含めませんでした。彼らも陸地生活と関係ありますが、人間と関係するからです。最終的には、マニリウスは山羊座と水瓶座を「水陸の」に分類しました。地上と水中、両方にいますから。(246頁)

のように分けられるので、水と陸を渡ってくる様子(あるいは水の中に陸がある様子)は船に乗っている子ライオンということで、質問そのものとパート・オブ・フォーチュン(財産・宝物)が獅子座金星(獅子の群れ)から離れて運ばれていく(双子座木星:どちらも旅行)雰囲気に重なり、さらに1ハウスは質問者もあらわすので獅子について喜び(金星)がある……みたいな感じです。

(初めて読んだときは「これは一体何なのだろう?」みたいな印象だったけど、何通りもの読み方を含んでいる方が自然な気もしてくる。サインとハウスもある意味混同するのが自然なのかもくらいの緩さが却っていい解釈になっている気もするし……)

 というわけで、次は一気に複雑で紆余曲折を含んでいるこれです。

 もし占星術家が正しい判断をできる状態になかった場合には、幸いホラリー・チャートは警告を与えてくれます。……占星術家を表すシグニフィケーターの天体の力も、占星術家の心の状態を明らかにしてくれるのです。占星術家自身のルーラー(7ハウスのルーラー)が土星とのハードアスペクトによって弱体化されていたり、キャデント(柔軟宮ハウス)にある、逆行している、インターセプトされていたりするなどの場合、占星術家はチャートを読むのに困難を伴います。……

 1989年の春、私はジョーン・マクエバーのホラリー占星術の講義をカセットテープで聴きました。マクエバーは、あるチャートをうまく読めないことがあり、いまだに読めていないという話をその講義でしていたので、そのチャートのコピーを欲しいと彼女に依頼しました。1978年、マクエバーの息子が問いかけた、「ステンドグラスを扱う会社を買うべきか?」という質問です。1978年9月9日土曜日、……その日は土星の土曜日で、土星は水晶のようなもの(結晶状のもの)を支配します(ホラリーでは曜日を七天体にあてて、質問の内容にあっている曜日かも重んじる)。

 アセンダントは射手座の17度45分でラディカル(アセンダントが3度未満だと時期が来てない質問、27度以降だと時期を逸した質問とされます)、息子のシグニフィケーターは木星になります。月は質問者(マクエバーの息子)の副ルーラーです。ビジネスを扱うハウスは第10ハウス、それに第6ハウスも可能性があります。第6ハウスカスプは牡牛座、第10ハウスカスプは天秤座であることから、金星がこのビジネスの主たるルーラーです。第10ハウスの火星もステンドグラス・ビジネスの副ルーラーです。火星は、かまどやガラス作りのナチュラル・ルーラーでもあります。

 彼の主たるルーラーである木星と、ビジネスのルーラーである金星と火星の間には、アスペクトがありません。アスペクトがなければ、何も起こりませんこれらの天体を鑑みると、ビジネスを始めるべきではないでしょう。ただ、質問者の副ルーラーである月は、この後火星とセクスタイルになります。この機会を掴むことができれば、ビジネスで成功を収めることができるでしょう。マクエバーは最初にチャートを読んだときに、このセクスタイルを見落とし、息子にビジネスはやめておきなさいと言いました。世の子供の常として、彼も母親の助言を無視し、ビジネスに手を出しました。そして非常に成功しています。マクエバーはどうしてチャートを読み違えたのでしょう?それにどうしてビジネスはこんなに成功しているのでしょう?

 最初の問いに答えるために、占星術家を表す第7ハウスを見てみなければなりません。第7ハウスのカスプは双子座で、水星がマクエバーを支配していることがわかります。マクエバーはライターであり、コミュニケーションを取るのが好きな人なので、これは彼女に当てはまります。この水星はインターセプトの乙女座、予言のハウスの第9ハウスにあり、あと4度で土星(遅延、妨害を表す)に合となります。また、水星(マクエバー)はアンダー・ザ・サンビームにあり、影響力を弱められています。

 水星の状態を見ると、占星術家がチャートの解釈に手間取って読みが遅くなってしまうことや、正しい答えを見つけ出すには他の占星術家に相談しなければならないことがわかります。(141~143頁)

 とりあえず前半終わりです。これは占いの結果とは関係ないけど、ネイタル的に読んでみると、1ハウス(自分)と7ハウス(他者)はホラリーでは1ハウス(質問者)と7ハウス(占星術家)の関係になって、7ハウスのルーラーが調子が悪いと、他者(占星術家)の介入がうまく行かない(ウィリアム・リリー曰く「占星術家の占断に質問者がほとんどもしくは全く満足しないとき、7ハウスのカスプに悪いアスペクトがある、7ハウスルーラーが逆行しているか悪いアスペクトがあるかフォール・凶星のタームにある、7ハウスに土星がある……(142頁)」)みたいになりそうです(これはホラリーとは関係ない話ですが、云われてみれば当たり前だけど、云われないと思いつかない解釈です)。

 これだけでも十分に興味深いのですが、後半ではさまざまな理論を解釈に統合していく様子がもはや芸術的です。というわけで続きをいきます。

 もう一つ、どうしてビジネスは非常に成功したのでしょう?理由はいろいろあります。海王星はガラスのナチュラル・ルーラーです。古い文献には特にそのような記述は見つけられないものの、恐らくステンドグラスも同様でしょう。月はマクエバーの息子の副ルーラーで、あと2度で海王星にコンジャンクションとなります。彼はもうすぐステンドグラスと一体になるのです。第10ハウスのカスプとビジネスを支配する2つの天体、火星と金星は、ヴィア・コンバスタ(天秤座15度~蠍座15度で、凶の恒星が多くあって蠍の「燃えるような毒針で刺される(火星的)」な場所)にあります。これはかなり悪い徴候です。でもちょっと待って。火星は本来の居場所、蠍のハサミの位置にあります。もし、最も良い意味を持つ恒星スピカ(天秤座23度50分にある恒星で、金星の性質を持つ。ヴィア・コンバスタ唯一の吉星)とのコンジャンクションがなければ、ヴィア・コンバスタは通常であれば火星のサディスティックな面を強調します。でも、1978年のこのチャートでは、……火星は……スピカに接近し、……スピカの金星的な一面が、火星の怒りっぽい性質をなだめ、怒りのエネルギーをステンドグラス作りという良い方向に変えます。そしてスピカとコンジャンクションになる火星は、ステンドグラス・ビジネスをすばらしい成功に導いたのです。

 しかし、ビジネスの主たるシグニフィケーターである金星は、ヴィア・コンバスタにあることで物事を台無しにしてしまわないのでしょうか?通常であればそうなりますが、このチャートでは火星と金星がミューチュアル・レセプションです。……このミューチュアル・レセプションによって、金星がスピカと出会い、その恩恵を拡大するのです。ボナタスは、「レセプションは悪意を和らげ」、「金星は火星の怒りを取り除く」と言っています。もっと言うと、ガラスを焼くかまどを支配する火星と、ビジネスを支配する金星にとって、このヴィア・コンバスタという燃える道以上に良い場所があるでしょうか?ヴィア・コンバスタにこのビジネスのシグニフィケーターがあるということは、このチャートはラディカル(有効)だといえます。なぜなら、この質問は燃焼(ヴィア・コンバスタはラテン語で「燃える道」)に関係あるものなのですから。

 上に書いたような解釈をジョーン・マクエバーに送ってから数ヵ月後、たまたま私はグイド・ボナタスがこの事例に当てはまることを言っているのに出会いました。不思議なことでした。ボナタスは格言(アフォリズム)の107番で「火星が第2ハウスか第10ハウスにあり、かつ好意的な性質を持っていないかを考慮すること。その場合、鍛冶屋やかまどで働く者、ガラス職人など、鉄や火を扱う者から恩恵を受けることを表す」という助言をしています。決して私の作り話ではありません。(144~145頁)

 ……すごい。美しい。まず、「海王星がガラスのナチュラルルーラー」というセンスが、個人的には最高なのですが(幻想的に美しいものは海王星)。さらに恒星やヴィア・コンバスタの解釈も取り入れ方が本当にきれいです。

 あと、個人的に面白いと思ったのが、地のハウス(2・6・10ハウス)はどれも仕事に関するハウスだけど、ホラリーでは6ハウスは労役・病気のハウスなので除くとして、2ハウス(稼ぎ)・10ハウス(功業)に火(火星)があって状態がいい場合、火に関する仕事(窯業・鋳物師など)に向いている……というのも、ある意味これくらい具体的・即物的な方が象意のイメージが浮かびやすい気がしてます。

 現代寄りにしてみると火星があるハウスは情熱的・賭けに出るみたいな意味になるけど、ボナタスの解釈に重ねてみると、「情熱的」は窯で磁器を作るときにはかなりの量の薪を燃やして凝煉するように凄まじい熱量を入れること、「賭けに出る」は例えば窯変の色味を出すために何種類も釉薬を作ったり、それでも焼くときの温度が少し違うと色がずれるみたいになって、その凄まじい熱量を費やして偶然の一回に生まれてくるようなものに価値を感じる……みたいな性格と読んでもいいような気がしてくる(現代占星術の難しさは、ホラリーと比べて解釈が抽象的なところかも知れなくて、ホラリー的な読み方は比喩を通じてそれを補える気がするかもです。この「賭けに出る」雰囲気は、幸田露伴の「鵞鳥」という作品を思い出したりする)。

 あと、海王星はガラスのナチュラルルーラーだとしたら、天王星は雷、冥王星は闇やごった煮、渾沌のナチュラルルーラーになりそうで、さらに火星海王星は花火、月海王星は詩、金星海王星は幻想的な花器、土星天王星は山を突き崩す雷みたいにイメージとして性格や様子を描写する感じが占いっぽくて楽しい(これは余談)。

 そんな感じで、もう一つヴィア・コンバスタについての占例を。

 1989年7月21日、金星の金曜日、……私はこう質問しました。「コンピューター・テスト・プログラムを購入するべきでしょうか?」この質問は、すでに注文済みのコンピューター・プログラムに関するものでした。(このプログラムは、幾つかの質問に答えることで患者の精神状態を調べることができる心理テストのプログラムで、非常に安価でありながら高い効果をあげられるという売り文句から却って不安になってチャートを立てています。ちなみに、著者のアンソニー・ルイス氏は精神科医でもある)……

 チャートを見てすぐにわかるのが、獅子座29度44分のアセンダント、つまりラディカル(有効)でないアセンダントです。すでに注文していて、結果をどうこうするにはもう遅いため、時期を逸した質問でした。すでに決まったことの確認をしようとしていたのです。ある意味、これはひっかけ問題のようなものです。というのも私は「購入するべきだったでしょうか?」ではなく、「購入するべきですか?」と聞いているのですから。29度は、危険や不幸の度数で、もどかしさ、危機、失望を表します。アセンダントが固定宮の獅子座、アングルはすべてフィクスド(固定宮)です。これは物事が固まってしまって、変えるのは難しいことを表しています。すでに私は、買い物は失敗だったと考え始めていました。

 現代的な事柄についての占星術的ルーラーシップについては、統一的見解があるわけではありません。私はコンピューターやプログラムに関しては第3ハウスで見ることにしています。コンピューターは考えやコミュニケーションを伝達するものだと思っているからです。そして水星(コミュニケーション)と天王星(最新の機器)をコンピューター関連のナチュラル・ルーラーと考えています。チャートでは、第3カスプは天秤座25度で、金星がこのプログラムを支配していることを表しています。第3ハウス12度で逆行中の冥王星(蠍座のルーラー)は、副ルーラーです。第3ハウスのカスプと副ルーラーの冥王星が、ヴィア・コンバスタにあるのを見て不安になりました。まるで私のコンピューターが蠍の毒まみれになって、自分が針で刺されているような気分になりました。

 金星はコンピューター・プログラムの主たるルーラーで、悲しみと破滅の第12ハウスにあり、水星(コンピューター・プログラムのナチュラル・ルーラー)と火星(副ルーラーである冥王星、またパート・オブ・フォーチュンのディスポジター)が近くにあります。私の買い物は悲しみと失望に変わってしまうのでしょう。コンピューター・プログラムのもう一つの副ルーラーである天王星は、喜びの第5ハウスで逆行し、毒々しい冥王星・沈滞の土星(元は「毒々しい冥王星・略奪の火星」ですが、火星ではなく土星かもです)に挟み込まれて、ビシージされています。私にとっては何も良いことがありません。(シグニフィケーターの両側に火星・土星・トランスサタニアンの凶星があることを包囲:ビシージという)

 最後に、アセンダントは獅子座なので、私の主たるルーラーは太陽です。ここで太陽はノー・アスペクトかつボイド・オブ・コース(そのサインを抜けるまでアスペクトを取らないこと)であり、私が無駄な決断をしてしまったことを表しています。ノー・アスペクトだと、ことは何も起こりません。やはりあのプログラムは購入するべきではなかったのでしょう。

 私の副ルーラー、魚座4度の月は、他の登場人物――つまりこの場合はプログラムのセールスマン――を表す7ハウスにあります。つまり私はセールスマンの言いなりなのです。月はこの後、第3ハウス(コンピューター・プログラムを表す)で進行中の冥王星とトラインになり、それから第4ハウス(事項の結末。4ハウスには墓という意味がある)のルーラーである火星、プログラムのルーラーである金星とクインカンクスになります。通常であればトラインが助けになってくれたでしょうが、ここでは冥王星がヴィア・コンバスタにあり、力を弱められています。2つのクインカンクスが示すのは、調整と再編成です、この事はスムーズに進まないでしょう。

 さて、結果はどうなったでしょう?プログラムは私のノートパソコンでは動かないフロッピーディスクで届きました。私はその会社に交換を依頼しました、再び送ってもらいましたが、やはり動きません。今日に至るまで、そのプログラムが私のノートパソコンで動いたことはありません。それでも何とかしてフロッピーディスクのコピーを作り、職場bのコンピューターに入れることができました。私はクリニックの新規患者にこのテストを試してみました。すると、軽度の鬱というテスト結果が出ました。しかしそのテスト結果は、大きな誤解を与えるものだったのです。というのも、その晩に患者は自殺の恐れのある深刻な状態になり、入院することになったのです。鬱は深刻なものでした。投薬反応も芳しくなく、ついには電気痙攣療法を行わなければなりませんでした。のちほど紹介するジョーンズの言葉にあるように、電流は個人の頭を引っかき回すものであり、ヴィア・コンバスタに象徴されるものとも符合します。私は蠍の針に刺されたように感じ、もちろんそのプログラムは二度と使いませんでした。(120~123頁)

 ……これも深くて美しい解釈です。まず、著者はトランスサタニアンについては(ホラリー占星術は基本的には古典占星術の七天体で占うのですが)こんな感じで読んでいます。

 ホラリー占星術か個人的な質問を扱います。質問者のコントロールが及ぶ領域です。つまり、ルーラーシップは個人的な天体に限られるはずです。3つの外惑星(トランスサタニアン)はそれぞれのサインで2番目のルーラーとして働くことができますし、時には個人の領域を超えた非人格的で、普遍的な性質を示すこともあります。また、かつての古い世界には存在しなかった現代的な状態に言及することもあります。……

 質問対象が例えば、「精神分析を受けるべきでしょうか?」というような場合、火星よりも冥王星で、蠍座がふさわしいカスプを定義すると考えるほうが自然です。水瓶座が質問の位置の場合、土星よりも天王星のほうが、もっと確実にコンピューター・テクノロジーを象徴します。魚座が質問の位置の場合、木星よりも海王星が、映画撮影に関してシンボルとなる傾向が強いでしょう。(164頁)

 この質問の場合は、コンピューターについてなので、天王星をシグニフィケーターにしていいという感じです。今回のヴィア・コンバスタは凶の意味が強いです。さらに、冥王星は第3ハウス(コンピューターのハウス)にあるので、コンピューターの副ルーラーになると同時に、コンピューターのナチュラルルーラーでもある天王星を土星・冥王星が挟撃するように囲んでいて、冥王星は破壊(さらにヴィア・コンバスタにあるので毒を帯びている)、土星は停滞・頓挫などを表すので、コンピューターはヴィア・コンバスタで焼かれたり、熱い毒による破壊(ヴィア・コンバスタの冥王星)と停止(土星)に見舞われて……という様子です(冥王星は一天体で二つの意味になっている)。

 そして、ヴィア・コンバスタの意味として、マーク・エドモンド・ジョーンズは

 ヴィア・コンバスタは、「個人の頭の中、またはある種の宇宙の波動が、めちゃくちゃにかき回されている(chaotic reshuffle)」のだといいます。……ジョーンズは例によって、どういう場合なら、月がヴィア・コンバスタにあるチャートを読んでもいいかについて述べています。もし質問が「このような混沌とした状態を利用して優位に立とうとする場合、または全体の状況をかき乱して人を戸惑わせることをある意味利用する場合」であれば、チャートはラディカルなものとして読んでもいい(それ以外のときは、月がヴィア・コンバスタで焼かれていると「物事が判断しづらい不安定な状態にあり、混乱して自分の思い通りにならず不満を覚える」)。(132頁)

のように云っていて、ステンドグラスはどろどろに溶かしたガラスを火(火星)によって美術品(金星・スピカ)にしていく熔鉱炉のようなヴィア・コンバスタ、今回のコンピューターの例では「深刻な鬱症状を和らげる発作(脳に無秩序な電気ショックを与える)は「混沌とした状態を利用して優位に立とうとする(132~133頁)」けど、そのヴィア・コンバスタはコンピューターにとって悪い方にしか出ていないので凶、という感じです。

 この矛盾する解釈を統合する感覚は、本書のあちこちに出てきて、こういう例を読ませてくれる本ってあまり見たことないので、そういうところも魅力的です。あと、どうでもいいけど「ある種の宇宙の波動が……」というマーク・エドモンド・ジョーンズの言い回し、サビアンの解説を読んだことがあると、エドモンド・ジョーンズってそういう言い回し好きだよね……ってなります。

 そして、何通りもの読み方を統合していく例としてかなり面白かったのが、最後に紹介するこれです。

 1974年2月3日の日曜日、マクエバーは友人からこんな質問を受けました。「私の家は今月末に燃えていますか?」……

 チャートは質問者の心配事をよく表すふさわしいものでした。その日は日曜で、火の天体の太陽は、「質問」そのものを表す水星と一緒に、死と破壊の第8ハウスに位置しています。質問者を支配する月は不安と悲しみの第12ハウスにあり、質問者の精神状態をあらわしています。占星術家を象徴する第7ハウスカスプの山羊座のルーラーは土星で、これもまた第12ハウスで質問者を表す月に合となっています。占星術家が質問者と一緒に心配し、質問に答えるのに苦労することが土星から見てとれます。

 第7ハウスカスプ山羊座のルーラーの土星は、第12ハウスで逆行しています。第7ハウスのルーラーが逆行しているということはつまり、占星術家が読みを誤ってしまう可能性があると警告しています。……マクエバーの友人は、雑誌『Horoscope』の月間占いで、家が火事にあうという予言を読んだようで、不安にかられて質問したというわけなのです。第12ハウスの土星と月に見てとれるように、チャートではマクエバーとその友人双方がかき乱されています。質問者を支配する月は、火事になりそうな自宅を表す第4ハウスカスプのルーラーの金星とオポジションをとろうとしています。2つの逆行する凶星、冥王星と天王星が第4ハウスにあり、これは不動産を示す副ルーラーになっています。質問者を表す月がこの後、この2つの逆行する凶星にスクエアとなります。かなり悪い状況のようです。今すぐ消防隊を呼んだほうがいいかもしれないぐらいです!月末まで待っている場合じゃないかもしれません?

 マクエバーは、相当な時間をかけてこのチャートの意味を考えました。チャートを他の占星術家にも見せましたが、彼らの解釈もやはり家は火事になるというものでした。でも、2月はやってきました。そして何事もなく過ぎ、今でもその家は建っています。火事なんて起らなかったのです。普通の人なら、ホラリー占星術なんてやめてしまったかもしれません。でもマクエバーは、あくまでもこのチャートの意味を理解しようと努めました。そして水瓶座人の利点を発揮して、状況を抽象化し、彼女のメソッドの基礎となるものに行きついたのです。マクエバーはここで、スクエア・オポジションは「ノー」、トライン・セクスタイル・コンジャンクションは「イエス」を表すというルールを導き出しました。このチャートをマクエバーのやり方を使って読むと、質問者のルーラー(月)と、家のルーラー(天王星・冥王星)間のスクエアまたはオポジションは、元の質問に対して「ノー」という答えになることを表します。つまり答えは、「いいえ、家は燃えません」なのです。

 私は同じチャートに別の方法でアプローチし、同様の結論に達しました。質問が家のことで、それが燃えるかどうかという内容だったので、デリヴァティブ・ハウスを使ったのです。不動産は第4ハウスに属する事項です。天秤座が第4ハウスのカスプなので、金星が主たるシグニフィケーターです。冥王星と天王星は家の第2のルーラーです。

 伝統的な占星術での「全焼」に関するハウスがどれにあたるのかわからなかったので、私は火星を火のナチュラル・ルーラーとして使いました。リリーはかつて火星を象徴として使い、ロンドン火災を予言しました。ハウスで見るなら、第4ハウスから数えて8個目のハウス、つまり元のチャートの第11ハウスを使うのが良いでしょう。8個目のハウスというのは何でも、起点となるハウスに表されるものの怪我や死を意味します。

 チャートでは第11ハウスに火星があるため、私の考えは合っているようです。チャートに導いてもらうとうまくいくものなのです。第11ハウスのカスプは牡牛座なので、金星が家とその消滅のルーラーとなります。第11ハウスの中にある火星はもう一つのルーラーとなります。すでに金星が、家を表す第4ハウスの主たるルーラーになっていることと、火星は火災を支配することから、私は火星を「全焼」の第11ハウスの主たるルーラーと定めました。

 金星と火星はこの後どのようなアスペクトをとるでしょう?金星は山羊座27度で逆行しています。火星は牡牛座17度で順行です。2つの天体は、天文暦で見ると1974年2月23日にぴったりトラインになる予定です。月末の火事を表すどころか、家のルーラーは火のルーラーに対して考えられる限り一番良いアスペクトを取ろうとしているのです。というわけで、私の答えは「いいえ、家は燃えません」でした。火のルーラーはこのとき家に対して好意的でした。もしスクエアかオポジションだったら、私も警戒したことでしょう。

 ここまでの話を読み返すと、ここで質問者がもともと質問したかったのは、家が燃えるかどうかということではなくて、雑誌『Horoscope』の占いは当たっているのか?ということではないかと思えてきました。もし私がこのときに質問者に聞いてみることができたなら、「予言(噂)は本当ですか?」と質問を言い換えていたかもしれません。私は太陽星座占いについてはあまり見識もなく、せいぜい噂くらいにしか思っていないのです。

 噂は第3ハウスで見ます。カスプは乙女座なので、水星がそのルーラーになります。水星はレポートやコミュニケーションのルーラーでもあります。水星は第8ハウスにあり、死や破壊に関する噂としてはうってつけです。噂に対する「事項の結末」を表すのは、第3ハウスから4つ目の、第6ハウスで見ます。第6ハウスのカスプは射手座なので、木星が噂の結末、つまり噂が消えた後に残る真実を支配します。水星と木星はこのチャートではアスペクトを形成していません。アスペクトがなければ、アクションも起こりません。この噂に関しては、何も起こりません。嘘の噂なのです。月末に家は燃えないのです。

 ここでわかるのは、1つのチャートに対し、2つの異なる手順があり(アスペクト・ハウス)、3つの違ったアプローチができるということです。そして、自分で選んだ方法に従って、首尾一貫した方法で段階を追って進めていけば、同じ答えが出るのです。(86~89頁)

 ……すごい。まず、同じ答えが出ることにも驚きなのですが、それ以上に印象に残ったのが、途中に出てくる「ルーラーの分配」です。金星は家のルーラーでもあり、火事のルーラーでもあり……となっているけど、火星は火事のルーラーの役しかないので、さらに火星はナチュラルルーラーとしても火なので、火星を火事、金星を家のルーラーとする方が近い……という読み方は、ある意味ぼんやりしているようだけど、意外とこういう感覚があると何となくこの天体はこっち寄り……みたいにできて、さきに上げたナチュラルハウス・ナチュラルサインとの組合わせでそれらしいものを探す感覚(子ライオンの例などに多く出てくる)とも通じます。(これについては別記事で色々書いてます

 一つのホロスコープを読むときに繰り返し出てくる要素を重ねるように読んでいく感覚が覚えられるのは、この本の最大の魅力だと思っていて、一種の「原始的な想像力」みたいな印象です(火星は火、というのも原始的なようで解釈の一部になっているし、ここでは書かれてないけどディグニティで見ても、火星はデトリメント、金星はトリプリシティ、水星はデトリメントのように、凶事のシグニフィケーターはどれも弱っていたりする)。

 これ以外にも魅力的な占例は幾つも載っていて、例えば

サンフランシスコ地震(67頁、トランスレーション・オブ・ライトで読んでいる)
Mr.Bの邸宅(235頁、煮え切らないチャート)
原稿が盗まれた話(366頁、ルーラーの分配がさらに複雑になっていて、ハウスの方位も混乱を極めて読み応えがあり過ぎる)
本書(『ホラリー占星術  入門と実践』)はそもそも出版されるか(421頁、ナチュラルサイン・ナチュラルハウスの感覚で読んでいる)
読者の占例(437頁、素朴さが新鮮)

などは特に好みだったりします。

 あとは、アラビック・パートが幾つか載っている(458~462頁)のですが、その中には

オカルトのパート:アセンダント+海王星-天王星
占星術のパート:アセンダント+水星-天王星
甘い食べ物のパート:アセンダント+金星-太陽

などもあって、アラビア時代以降も新しいパートは作られているみたいです。もう一つ興味深かったのは、天体やサイン、ハウスを色であらわしているもの(385~387頁)があって、サインの色はファッションと占星術の対応などでみる組合せとは少し異なる部分もあって意外だったりするけど、天体と色の関係はかなり納得できる雰囲気があります。例えばこんな感じで

月:白、オパール、薄いクリーム色、パール、銀、白が入った斑点、その他の混合色、薄い黄色がかった白、淡緑色、淡い青(全体的に白っぽい感じ)
水星:くすんだ銀色、空色、薄青色、鳩色、混合の新色、空色が入ったグレー、透明(全体的にくすみ系)
金星:キラキラした明るい色、白、紫、青みがかった色、茶色か緑が混ざった白濁した青、空色、緑、黄色、赤銅色、真鍮色(鮮やかな色。ちょっとアーシー系)
太陽:黄色、黄色と紫、金色、緋色、紫、鮮やかな赤、オレンジ(濃烈な色)
火星:燃えるような赤、緋色、洋紅色、鉄や錆色、キラキラした色、サフラン色、黄色(重金属的な重みのある色)
木星:緑が混ざった赤、灰色、海緑色、藍色、紫、スミレ色、黄色と緑の混合、明色、透明、空色(遠くまで抜けるような色)
土星:黒、緑、茶色、淡色、青白い色、鉛色、灰色、木の色、暗い色(濁った色)
天王星:格子柄、チェック柄、混合色、青緑色、多色(エキセントリックな色の組合わせ)
海王星:海緑色、ターコイズ色、灰色、ラベンダー色(茫漠とした色)
冥王星:暗色、緋色、蛍光色(異形的な色)

みたいになっていて、一つの色というよりは天体のイメージと重なっている気がします(金星のところに出てきた「茶色か緑が混ざった白濁した青」って、イメージするのが難しいのですが……)。さらに天体の組合わせになると、こんな感じになります。

月+海王星:青緑色
太陽+土星:キラキラした青銅色、黒みがかったオレンジ
火星+海王星:濃い紫の混合
火星+冥王星:暗赤色
海王星+冥王星:赤紫色

 個人的に火星冥王星アスペクトが赤黒い色、火星海王星アスペクトは濃い紫が混ざり合っている様子(たぶん火星は赤っぽくて海王星は青紫っぽい)とかはすごく納得できる。

 こんな感じで、一冊あれば色々な楽しみ方ができる本なので、すごくおすすめだったりします。もっとも、太陽とASCルーラーが牡牛座で固定宮・地星座過多だったりすると、ホラリーチャートを出してみるときには大抵ASCが27度以降になっていて、ほとんど答えが出ているようなことを聞いているようなことが多くなって、ホラリーを使う機会がほとんど来ないのですが。あと、この本の「ザ・占星術書」という見た目が好きだったりします。

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)の月天王星海王星合だったりします笑。 易・中国文学などについてのブログも書いてます

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