アイヴィ・ヤコブソン

饕餮と魍魎

 あまりこういう猟奇的な話をするのは好きじゃないけど、チャートを読むときに参考になるかもしれないという意味で書きます(ここで書く話は、大体はホラリーチャート・イベントチャート向けの話なので、ネイタルでは違う解釈になることが多いと思います)

 というわけでなのですが、ホラリーチャート・イベントチャートについて色々みていると、まず基本的な凶の度数として、

アルゴル:牡牛座26度あたりの恒星
アルキュオネ:双子座0度あたりの恒星
サーペンティス:蠍座19度(恒星ではない)

の三つが出てくるのですが、この三つはそれぞれ大凶的な読み方をされていて、この三点に天体が重なるチャートは大抵悪いことになる、みたいに読まれています。

 それぞれの性質として、アルキュオネは「泣いている姉妹たち」といわれて“泣きたくなることが起こる”みたいな意味なのは何となくわかるけど、アルゴルは“斬首、火災、暴力、死”、サーペンティスは“呪われたサインの呪われた度数”のように云われていて、どのように凶なのか違いがわからない……と思っていたので、アルゴル・サーペンティスが目立っているチャートからその質感の違いを(素人考えで)読んでみるという記事です。

悲恋綢繆

 というわけで、初めにアルキュオネからなのですが、神話の中では七人姉妹のうち一人が離れ離れになったことを嘆き悲しんで泣いている……というふうになっていて、これについて雰囲気が伝わりやすそうなチャートを載せてみます(次の二例はアイヴィ・ヤコブソン『Here and there in astrology』からです。今回はどの本からも引用したリーディングは一部意訳&略したりがあります)

 これは自殺への想いを抱きやすい女性のチャート。なぜなら、アセンダントのルーラー水星(思っていること)が自殺の12室にあり、水星はPOFと90度、さらに太陽は海王星(8室ルーラーで、自殺の12室にかかわる天体)と合なので。

 さらにMCにはアルキュオネが合になっているので、10室的なことについて泣きたくなることが起こるらしく、MCは太陽のアンティションに重なる。太陽は12室のルーラーで、Ascルーラー水星も12室に入っている。(アイヴィ・ヤコブソンは12室or魚座or魚座のデーカンのPOFを「不幸のパート」と呼んでいるので)水星は不幸のパートと90度になっている。

 これだけではまだ然程悪いわけではないが、さらに4室(墓)ルーラーの冥王星(蟹座4度)が、8室ルーラーの木星(双子座4度)と海王星(獅子座4度)のちょうど間に入っていて、MC(牡牛座28度)はソーラーアークで36度動くと、ちょうど冥王星に重なることになる。これはソーラーアークで36度動いたときに大変なことが起こることを感じさせる(ソーラーアークは次からSAと書きます)

 尤も、ここからも危うい兆候が重なっていて、まずSA火星は36度動くと獅子座4度にあって8室ルーラー海王星と合、もう一つの8室ルーラー木星はSAで36度動くと蟹座11度にあって、これは月とダークムーンリリスの間の度数と90度になる。(アイヴィ・ヤコブソンはダークムーンリリスを“気持ちが弱っているときに幽霊のように現れ、古くて暗いものに惹き付けられて生きるように誘うもの”としています。別書『The dark moon Lilith in astrology』1頁より)

 SAの月は蠍座18度にあって、これは「呪われたサインの呪われた度数」と云われていて(サーペンティスのこと)、冥王星と135度、さらにAscルーラー水星はSAで乙女座22度にあって、天王星と150度になっている。

 SA火星が、11室の太陽(獅子座で強い)と重なっていたときは、彼女はラスベガスで良い仕事についていたが、SA火星が太陽を離れて、獅子座でデトリメントになっている土星と合になる頃になって次々と仕事を変えるようになり、最後のほうは収入もなくルームメイトに頼るようになっていて、海王星の“仮名で生きる・追い出されている”という様子になっていた。

 彼女は異様なほど困惑して、火星と海王星の合のように落ち着かず不安になって、ある夜に睡眠薬の大量摂取で自死してしまった。海王星はドラッグで、五日間眠り込んでそのまま起きることはなく、これはSAのMCが冥王星(死のナチュラルルーラー)と合、海王星(ドラッグ)と30度、月(感情)がサーペンティスと合になったことにも重なる。(96~99頁)

 ……まず驚くのは、ソーラーアークってこういうふうに使うのか……ということで、同じ度数に天体やアングルがあるホロスコープは、ある年齢になると一斉に複合アスペクトができたりして、ソーラーアークが出やすいらしいです……。45度・135度の読み方も、マイナーアスペクトだけでは然程危ないものではないけど、それ以外のハードアスペクトを合わさると弱いスクエアが幾つもある、的な意味になりそうです……。

 ということでアルキュオネなのですが、MCアルキュオネ合のチャートで、仕事に関わることでアルキュオネ感が出てきそう&元々10室の副ルーラーになっていた火星が、状態の悪い土星・不安(&ドラッグ)の海王星と合、さらに不安(12室)のルーラー太陽のアンティションとMCアルキュオネ合が重なる、Ascルーラーの水星も12室というように、かなり“不安”に結びつきやすいチャートに仕事方面のことで余計に不安が重なるようになっています。

 アルキュオネは“七人姉妹のうち一人が離れてしまって泣いている”というように、もともとあったものが失われて悲しい、という意味があるような気がします(ここでは仕事が次々失われて……みたいな意味です。福本基先生の『はじめての恒星占い』84頁でも「悲しみで涙を流す思い出、特に別れと関連しています」とあります)。

 もう一つ、サーペンティスについてなのですが、この度数はSAの月(感情)が傷つけられて……という形でこのチャートでは出てくる感があるのですが、それが睡眠薬の大量摂取につながったのは、もしかすると“ふだんは在り得ないような気持ちが涌いてきてしまう”という意味だと思ったりしています(これについても、別の例を含めてみていきます)。

 もう一つ、今度はアルゴルが出てくるチャートをみてみます。

 これは駆け落ち婚が起こったときのイベントチャート。この出来事は太陽が天秤座にあることから結婚に関わるチャートで、さらに獅子座は2室にあるので太陽は2室ルーラー(2室:風習、伝統などもあらわす)、さらに2室には結婚のナチュラルルーラー金星もある。さらにAscルーラーの月が9室カスプ(9室:儀式)に合なので、結婚式になりそう。

 Ascの蟹座も家庭、Ascルーラーの月も魚座の蟹デーカンにあるので、チャート全体の意味としても蟹座(家庭)が濃いらしく、7室(結婚)ルーラーの土星と9室(儀式)ルーラー木星が合、POFが射手座(9室のナチュラルサイン)なのもそれっぽい。尤も、POFが3室海王星(行方を晦ませて行く)と90度なのは「駆け落ち」の意にみえる。(198~199頁)

 これは短いけどチャート全体の意味をAscルーラーから感じ取るアイヴィ・ヤコブソンらしいリーディングだと思うのですが、ここでは11室にある牡牛座25度の天王星がアルゴルと合です。

 天王星は8室(狭い関係)ルーラーで、この狭い関係は独立的(天王星・水瓶座的)な雰囲気があるのですが、それがアルゴルと合だったりすると“多少は無理やりでも”という意味になるのかもです(これも後に出てくるチャートで書きます)。11室なのは、結婚についてだと希望で読んでいいかもです。

凶狠饕餮

 そんなわけで、つづいてはデレク・アップルビーの占例からアルゴル・サーペンティスについてみていきたいのですが、まずはこれです。

 ある人が議員の選挙に出るときに「私は当選できますでしょうか」と質問した。

 質問者(Ascルーラー)は太陽、太陽は牡羊座にあって高揚していて、これは積極的な様子を示している。10室(地位)のルーラーは火星、火星は10室にあるけど、牡牛座でデトリメントにもなっていて、太陽とのアスペクトもない。勝敗が絡むものでは5室も見るので、5室ルーラー木星をみると射手座でドミサイルにあるけれど、太陽と120度を作り終わって離れていくところで、月(全体の状況)も火星(10室ルーラー)と60度を過ぎて、木星と90度になりつつある。

 どうやら天体のディグニティは良くても、いいアスペクトが出来ていく様子がなく、物事の結末(4室)をあらわす金星は牡牛座にあってもアルゴルと合になっている。私の読みでは当選できないと思ったが、駄目だと思って選挙に出る人はいないし、落ち込ませるのも良くないと思ってこのことは話さずにいた。そして、選挙の結果は、三回に亘る数え直しを経てわずか十票以下の差で当選できなかった。(156~158頁)

 これをみると、Asc獅子座、Ascルーラー太陽が牡羊座で高揚というふうに、かなり状態は良さそうに見えます。このときのアルゴルは、金星(4室ルーラー&10室副ルーラー)と合になっていて、かなり僅差にまで粘るけどわずかに及ばず……というふうに、むしろ“多少無謀な貪欲さ”みたいな感じだと思うですが……。

 アルゴルが不成就につながる天体とされるのって、もしかすると無理を圧し切ってでも喰らい付こうとするような凶残で獰悪さ(アルゴルはネイタルだと貪欲・凶邪などの意味にもなる)から派生した感覚だったりしそうです。この凶獰さがネイタルで良い解釈になると欲を生きるエネルギーに変えられることになったりするのかもですが。

 あと、どうでもいいけど、アルゴルのイメージって、個人的に牡牛座24度「馬にまかがり戦利品を身につけたインディアン(みずからのもっている物を守るための貪欲で荒々しい力)」みたいな姿で思い浮かぶのですが、さらにインドのカーリーっぽい“凶(人を陥すほど深い穴のような飲み込んでいくような怖さ)”が重なったり。(……この辺り全然想像なので読まないでいいですが)

 一方で、サーペンティスが効いているチャートをみてみると、これも「変なものが出てくる」的な意味で、さきの睡眠薬のチャートと似ている気がします。

 ある人がflat(同じ階の数部屋を一つの家族で住めるようにした共同住宅)を買おうとしていたが、そのためにお金を借りられるかどうか問うた。

 この質問はお金が借りられるかに関わるので、8室(共有の財)でみることになる。Ascルーラー(質問者)は木星、8室ルーラーは月だけど、カスプ近くにある太陽も8室ルーラーに含めていいと思われる。太陽は木星との120度を終えて離れていくところにあるが、月(8室ルーラー&全体の状況)がまずは木星(質問者)と合、さらに太陽(借財)と120度になって、一度離れてしまったアスペクトを再演するような形になっているので、お金は借りられると読んだ。……

 ところで、この質問はお金が借りられるかについて訊かれていたので、共同住宅の状態については何も云わなかったのだが、10室(土地や家の価格)で、4室ルーラー(土地)の火星がデトリメントになって、2室ルーラー(質問者のお金)土星が合になること、さらにその二つに太陽(借財)が90度になりつつあることが不安に思えた。

 そんなわけで、共同住宅は無事に買えたのだが、間もなくその共同住宅は地下水脈の上に建てられていて湿気の問題があって住めないことがわかり、質問にきた人はその契約の取り消しを求めたが、それ以降もそれも叶わず、さまざまな手続きなどに手間取っている……(126~128頁)

 これは乾燥の火星(土地のルーラー)がデトリメントの天秤座にあって、しかも風星座は湿っているので湿気……とも読めそうですが、火星は4室と12室のルーラーを兼ねていて、12室は隠れた問題・みえない場所、そのカスプは蠍座なので、沼地・湿地・地下の通路・配管のそば……などのようにもなりそうで、さらに12室カスプがサーペンティスと合です。

 これもさっき書いた「ふだんは在り得ないようなもの(地下水)が涌いてきてしまう」みたいな様子にみえたりしてきます。或いはもっと「変なものが出てくる」みたいな意味でもいいかもですが。

 ちなみにデレク・アップルビーは同書51頁で「サーペンティスは……古い時代にこの度数にあったもの(おそらく恒星)は既にどこかへ動いてしまったはずなのに、何故か物事を蠱壊させてしまう」と云っています。サーペンティスはラテン語で「蛇」の意で、火星と土星の合わさったような意味になるとされていますが、(これからあげるアンソニー・ルイスの著では、)その近くにある恒星コル・セルペンティス(蛇の心臓のこと。別名ウヌクアルハイ。今は蠍座22度あたり)も土星と火星の象意をもっていてサーペンティスの起源だとしていて、調べてみるとコル・セルペンティスのある蛇座は、傷ついた仲間の蛇に薬草を与えて癒やしている蛇のことで、それによって死を逃れる奸慝で奇詭な執念深さみたいな意味かもです。なので、コル・セルペンティスとサーペンティスはちょっと違うらしいです。

淫淫蕩蕩

 ということで、今度は同じような事件についてアルゴルとサーペンティスが目立つチャート二つを並べて読んでみるというのをしてみます。この二つはアンソニー・ルイス『ホラリー占星術  入門と実践』から引用しています。

 ホラリー占星術について最近講演した「ニューエイジ」という書店のオーナーから自宅に電話がかかってきました。行方不明者を探すのを手伝ってほしいというのです。私が電話を受けた時間をもとに立てたのがチャート55です。

 質問の的になる若い男性は大学生で、週末にボストンに住む彼女を訪ねた後に行方がわからなくなっていました。ボストンに住む彼女の家から最後に実家に電話をかけた時間に基づいて立てたのがチャート54です。(行方不明者には双子の兄弟がいます)

 ホラリーの手法を用いてチャートを分析したところ、行方不明者は犯罪か事故に巻き込まれて十中八九亡くなっているという不幸な結論が出ました。……チャート54は、ニュージャージーに住む家族がこの大学生の声を最後に聞いた時間を描写しているので、最も重要です。ウィリアム・リリーは、行方不明のチャートでは質問者が行方不明の当事者と特別な関係がない限り、第1ハウスが行方不明者を表すと言っています(質問者は書店の店主で、行方不明者の双子の兄弟から「居場所を探すオカルト的な方法はないか」と求められたそうです)。

 チャート54では、凶の恒星であるカプト・アルゴルがアセンダントにコンジャンクションしています。アルゴルは頭部損傷、断頭、不運、死を象徴する可能性があります。アセンダントを支配するのは金星で、行方不明の双子のルーラーになります。金星は乙女座でフォールとなり、事故と怪我のナチュラル・ルーラーで、悲しみと自己破壊を司る第12ハウスのルーラーでもある火星にコンジャンクションしています。

 チャート54では、意味ありげに死のポイント(火星+土星−MC)が乙女座7度にあり、金星と火星の両方にコンジャンクションしているではありませんか!伝統的な死のパート(アセンダント+第8ハウス−月)は蠍座27度にあり、行方不明者とその肉体を象徴するアセンダントの真反対にあります。冥王星はかなり強力になっていて、留から順行に戻ったばかりで、水星(旅行)と土星(死)のミッドポイントに位置しています。……

 私が質問を受けた時間を表したチャート55では、私とこの行方不明の双子に自然なつながりがまったくないことから、第1ハウスが行方不明者を表します。第1ハウスで土星が逆行している場合、「質問の事柄はほぼ、または決して良い結果にはならない」というホラリーの伝統的な警告になります。……

 チャート55の第1ハウスに入っている惑星が行方不明の双子を表します。逆行する重い惑星(土星、天王星、海王星)が第1ハウスを占拠しているので、不注意、眠気、薬物(海王星)による事故(天王星)が暗示され、結果として死(土星)に至ることが窺えます。それに加えて、第8カスプのルーラー太陽が、第1ハウスの土星とぴったりクインカンクスを作っています。クインカンクスは、病気や死など第6と第8ハウスが表す事柄と関係することが多いです。

 ……若い男性は北東のコネチカットのルート84沿いにある人気のない雑木林の中で、死体で発見されました。彼はハンドルを握って眠り込んでいたようで、乗っていた車は遠く離れて近づくことができないエリアの脇道に入っていました。車は木に衝突し、この若い男性は頭部損傷で即死したようです。(432~437頁)

 これは一つめのチャート54ではアルゴルがアセンダントと合、二つめのチャート55では書かれてはないですが11ハウスのカスプ(蠍座20度)と11室ルーラー冥王星(蠍座17度)のちょうど間にサーペンティスがあります。11室は仲間・希望などの他に「大きい広がりのあって常事を外れたもの、どうなるか分からない無形のもの」という読み方もあるので(アイヴィ・ヤコブソン『Here and there in astrology』213頁より。不穏な質問では希望よりもそういう意味のほうが多い印象です)、チャート54はアルゴル、チャート55はサーペンティスが濃く出ている例とみられそうです。

 チャート54では、Ascルーラーが火星(事故・無謀などのナチュラルルーラー)と合、さらに金星・火星はどちらも5室(過剰な放散。通常の5室はここまで悪い意味ではないけど、暗い質問だとこういう感じで雰囲気が変わる)に在ったり、太陽(結末の4室ルーラー)が冷静な水瓶座土星(9室の旅ルーラーを兼ねる)と180度で分かれていったりと、全体的に「無謀な様子」を多くあらわしている感があります。

 一方、チャート55では、1室に重い天体があって予期せぬこと・茫忽としたこと・暗いことなどがあって、さらに水星(9室の旅ルーラー)と太陽(8室ルーラー)がミューチュアル・レセプションでどちらも8室にあって、(アイヴィ・ヤコブソンの「ミューチュアル・レセプションになる天体は、元の度数を保ったまま、みずからのサインに戻る」理論を用いれば)水星は火星(事故のナチュラルルーラー&11室ルーラー)と合になって……というように、“何か不測で偶発的なものと出会う”みたいな意味が出てくる感じがあります(Ascに天王星が合というのもそれっぽい)。

 そんな中でサーペンティスが11室に深く絡むのも、「ふだんなら出てこないような変なこと(サーペンティス)が不測で開豁のハウスに居る」みたいに読めそうです(ここではたぶん、運転しながらの眠気からの事故みたいなことだと思います)。

 こんな感じで、同じ事故についてのチャートでも、チャート54では無謀さ、チャート55では予期せぬことが出てくるという面がそれぞれ違う気がして、これがアルゴルとサーペンティスの雰囲気の違いだと思います。

 つづいては飛行機の墜落事故のチャート二つを並べてみるのですが、これも裏にある事情などをみていくとかなり様子が違うのがわかります。

トランスワールド航空800便墜落事故

 出発時間を1時間以上遅らせて、トランスワールド航空800便はケネディ空港からフランス・パリに向けて飛び立ちました。巡行高度まで上昇したのち、ケネディ空港から約80キロメートルの位置で突然機体がレーダーから消えました。午後8時40分に爆発、そして火の玉、もしくは二度目の夕日が落ちるのを見た、とも目撃者は語ります。……

 アセンダントは山羊座、土星がこのフライトを支配しています。この日土星は留となっており、逆行に転じるところでした。占星術的観点からすると、フライトの出発が遅れたのは驚くことではありません。ボナタスは、シグニフィケーターが「最初の留から逆行に転ずるときは何事も成就しないであろう」と書いています。このボナタスの文章に対してリリーは、逆行に転じる留は、「消滅と破壊」を表すと指摘しています。さらに、この土星はペレグリンで、牡羊座のフォールにあり、不吉な月のサウスノードと合で、その力を弱められているといえます。フライトのルーラー土星は、第1・第9ハウスのアルムーテンです(直前まで昼のチャートだったので、昼のチャートで土星は天秤座10~30度のアルムーテン)。というわけで土星は、航空機(第1ハウス)、長距離フライト(第9ハウス)と関わりがあることになります。

 アセンダントは、海王星そして恒星テレベルムと合です。テレベルムは金星と土星の性質を持ち(金星と土星はどちらもフライトを表す第9ハウスの昼のチャート天秤座10~30度のアルムーテン)、伝統的には絶望、暴力、殺人、損害と結びつけられてきました。そして、難破船のチャートでよく登場する恒星フォラーメンが、長距離旅行やフライトを表す第9ハウスカスプ上にあります。

 近代の占星術での凶星、海王星と天王星が2つとも逆行で、第1ハウスでアセンダント付近にあります。海王星が支配するのは消滅、天王星が支配するのは事故や突発的な事件です。太陽は沈んだばかりで、アセンダント付近の海王星とほぼオポジションです。火星(火を表す)は海王星とクインカンクス(クインカンクスは6室・8室的な病・死の意)。加えて、火星が恒星アルヘッカ(1996年時点で双子座24度43分)とぴったり合になっています。アルヘッカは火星の性質を持ち、伝統的な占星術では攻撃や事故と結びつけられています(同書453頁より「事故、口論、不機嫌、権力、攻撃、強欲」などの意があるらしいです)。

 天王星は7度逆行すると、アセンダントと合になります。水星(フライトのナチュラル・ルーラーで、ここでは不吉な第6・第8ハウスのルーラー)は、天王星とのオポジションをとったばかりです。オポジションから離れていく水星/天王星は、爆発の原因がなんであれ、離陸したときにはすでにその原因となる作用が始まっていたことを示しています。

 ……長期間にわたる捜査のすえ、爆発に関してテロリズムの証拠や犯罪の要素は見つけられなかったと発表しました。最も可能性があるのは、機器に何らかの動作不良があったということです。(75~78頁)

 この話は、ネットで少し調べてみると、どうやら荷物や乗客の数が一致せず、さまざまな確認に一時間以上かかってしまい離陸が遅れ、その間に漏れ出した燃料がエアコンの機械の熱で温められて気化して、機械室の中に充満しており、さらに離陸後に電気回線から放電が起こったときに引火して爆発した……とあって、たぶんですが気化した燃料(ガス:海王星)と電気回線の偶発的で突然な放電(天王星)があって、さらにMCはサーペンティスと合です(アイヴィ・ヤコブソンは前出書211頁で「イベントチャートの10室で太陽が凶星とともにここに在ると、悪いことが人々に知られる」と書いている。このチャートでは10室太陽は無いけど、全体的に凶事のチャートなので、それに近い読み方になりそうです)。

 10室ルーラーの冥王星は、同じく10室で遠くへの旅を意味する射手座にあって、さらに射手座のルーラー木星は不運・流落の12室でフォールになっています。そうなると10室もあまりいい意味ではないように見えてくるのですが、「燃料の漏れ出し」っていうところがサーペンティスの“ふだんは在り得ないようなものが涌き出てくる”に通じている気がします……。

バリュージェット航空592便墜落事故

 マイアミ空港の北西24キロメートルのところにあるフロリダ・エバーグレーズ(蒼鬱とした大きい湿地帯)にバリュージェット航空592便が墜落しました。……

 (墜落したときには)アセンダントがほぼ乙女座8度になり、第1ハウスでは水星がルーラーであると同時にアルムーテンです。リリーじゃアセンダントのルーラーを難破船のシンボルと見なしていたため、この場合、水星は592便を指します。水星はこのチャートの中で一番弱められている天体で、リリーの点数のつけ方だとマイナス11点になります。水星はペレグリンで逆行しており、コンバストの状態、そして凶星のアルゴル(伝統的な占星術において、火、暴力、斬首、死と関連する)にぴったり合です。(ペレグリン-5、逆行-5、コンバスト-5、アルゴルと合-5、水星金星ミューチュアル・レセプション+5、9室にある+2、水星が太陽より後に昇る+2)

 太陽が死のハウスの第8ハウスのアルムーテンであるとともに、不吉な第12ハウスのルーラーですから、フライトを表す第9ハウスで水星が太陽にコンバストされているのは非常に危険な状態です。また、水星は天王星とコントラションであり、天王星が象徴するのは事故や突然の予期せぬ出来事です。リリーは、コントラションはスクエアやオポジションに相当すると言っています。つまりこのチャートでは、水星が天王星とスクエアもしくはオポジションであるかのような状態になっているのです。

 小凶星、火星もフライトや長距離旅行を表す第9ハウスカスプにぴったり乗っています。また、牡牛座7度36分にある不吉な恒星、ハマル(火星と土星の性質を帯び、暴力、怪我、不運に関連づけられることが多い)とも合です。ハウス・システムとしてコッホ方式をとった場合には、第9ハウスのカスプは牡牛座8度となり、凶星ハマルは火星とカスプの中間点に位置します。コッホ方式も、イベントチャートやホラリーの分析をする際には、いつも示唆に富んだ結果を与えてくれます。

 フライトを表す第9ハウスのルーラーである金星は、このチャートにおいては最も品位の高い天体ですが、双子座の最終度数で、火星のタームにあります。金星はこの後すぐにパート・オブ・フォーチュンと合になりますが、双子座の最終度数なのであまり強い働きはしません(リリーの点数表で、POFは火星のタームで-2)。パート・オブ・フォーチュンのディスポジターは水星。このチャートで最も弱められている水星です。また、この金星は、サインをまたいで、土星とスクエアにもなっています。(72~74頁)

 これも先にあげた例と同じく飛行機の墜落事故なのですが、今回のバリュージェット航空は少しネットで調べてみると、

・中古の機体を安く仕入れて運用
・従業員の訓練や機体のメンテナンスを外部に任せている
・違法な機器による整備や、無理な運航など、安全面の軽視

などの方法で異様なまでの低価格を実現していた……とあって、このときの事故は期限切れ酸素ボンベの梱包が不十分な梱包のまま積まれて発火、というように、どちらかというと無謀なまでの利益重視・安全面軽視のやり方が事故になった……というふうに見えるのですが……。

 このとき、Ascルーラー水星はアルゴルと合なのも、このフライトそのものにかなり無理があったり危険を冒したところがある、という意味かもしれなくて、さらに水星金星ミューチュアル・レセプションも、金星(9室ルーラー)が元の度数を保ったまま牡牛座も戻ると同じくアルゴルと合になったり(POFも近くにあるけど、アルゴルの方が近い)、金星も同じく天王星とコントラションになったりと、このミューチュアル・レセプションはあまりいい意味がなさそうです。

 こんな感じで、アルゴルはどちらかというと無謀さ・貪欲さが悪い方につながる、という意味の凶という雰囲気があります。

 ところで、サーペンティスについては恒星でないので、どちらかというと度数に関わるものなのかもしれないですが、蠍座の19度(19度代ではなく、19度ちょうどという感じらしいです。実際、占例集などをみていても蠍座18度代にある感受点もサーペンティスと合にされているので、蠍座19度から±1度みたいな感じらしい)って、蠍座の魚デーカンの終盤ということで、サビアンでいうとこんな組み合わせです。

蠍座19度:聴いてはしゃべっている鸚鵡
蠍座20度:暗いカーテンを引いている女

 蠍座19度は、みずから考える暇もなく次から次へと色々な音が入って来るので、それを真似して喋っている鸚鵡のように、よくわからないものが湧いてくる(一種の扶鸞・自動筆記みたいな状態。尤も、ネイタルで出てきた場合には、神憑りしやすいというより内側からの思いもよらない直感という意味になることもありそうですが)、さらに蠍座20度になると意図的に外にある怪しいものにカーテンを開けて取り入れたり、閉じて落ち着かせたりができるようになる、という意味だったりすると、蠍座の魚デーカンの終わり(未知のもの:冥王星、いつの間にか流れ込んでくる霧:海王星)にやや抑えの利かないほど(火星+木星)べとべと汚れた水(蠍座)が茫々とあって……(茫々と:海王星)みたいな度数なのかもです。

 そんなわけで、アルキュオネ・アルゴル・サーペンティスの凶意の違いを漢字であらわしてみるとこんな雰囲気になりそうです。

アルキュオネ:奄忽、失われやすい
アルゴル:饕餮(貪欲な妖怪)、饕淫
サーペンティス:魍魎(水怪のこと)、毒瘴

(これはイベントチャート・ホラリーチャートでの話なので、ネイタルではもっと良い意味で読めるとも思ってます……)

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)の月天王星海王星合だったりします笑。 易・中国文学などについてのブログも書いてます

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