レビュー

マーク・エドモンド・ジョーンズのホロスコープ七分類について

 最近、マーク・エドモンド・ジョーンズにとても嵌まっていて、エドモンド・ジョーンズの本を幾つか読んだのですが、洋書のレビューを書いている人はあまりいないので、それについての記事を書きます。

 今回はこの『The Guide to Horoscope Interpretation』という本について書いていきます。まず、この本はホロスコープの天体配置の分類(バンドル型・バケット型など)についての本なのですが、エドモンド・ジョーンズはその分類の基準をこんな感じにしています。

スプラッシュ型
 平均的に分布。幅広い面で活躍するタイプ

バンドル型
 トライン(120度)以内に分布。選択肢が狭い

ロコモーティブ型
 120度欠如型(empty trine)。その120度の欠けを強く感じていて、それを埋めようとする。繋がっている星の並びで、最も時計回りの先端にある星をleading planetと呼んでいて、その天体が強く現れる(その根拠は示されず。おそらく別記事で書いた感じが近いと思ってます)

ボウル型
 半円型。星のある半円が持っている能力、星のない半円は課題として現れる。ロコモーティブ型と同じようにleading planetが想定されていて、ボウルの並びで同じく時計回りの先端にある星が強く現れる。

バケット型
 ボウル型に柄(handle)がついている。柄の部分にある一つの天体がleading planetのような働きをする。ボウル部分だけの特徴も現れるので、ボウル部に第二のleading planetがあるようになる。

シーソー型
 ボウルの柄が複数になる。両側に空白の領域がそれぞれ90度以上ある。二面性のバランスが求められる。

スプラッシュ型
 不規則ではあるが、合(集中)がある。スプラッシュの広い広がりよりは凝集点があり、バンドルの個人的すぎる関心よりは非人格の広がりを持つ(この「非人格の:impersonal」は個々の人間の生活に関わるような人格性ではない、みたいな意味?)

 これを読んでみると、ジョーンズ時点での配列ではスプラッシュの散漫からバンドルの凝集、ロコモーティブではそれの反転、半円系のボウル、その派生形のバケット、バケットの柄が増えたようなシーソー、最後にそのどれにも当て嵌まらないスプレーという流れになっていて、スプレー型をむしろ例外と考えていたらしい感じがあります。

 ちなみにスプレー型でよく言われる三角状に星が散らばるor三つの群に分かれるみたいに書かれることが多いですが、ジョーンズとしては不規則に散らばっているけど、スプラッシュほど平均的でもなく、ところどころに偏りの強さがあるのが特徴だとしています。

 というわけで、ここからはジョーンズが実際のホロスコープを解釈していくのですが、その解釈例を幾つか載せていきます(ネットでそれぞれの人物のホロスコープを調べると、今の情報とは出生時間が違うらしいのですが、とりあえずエドモンド・ジョーンズの読み方を紹介するということで、そのままでいきます)。

 まずは17世紀イギリスの政治家クロムウェルから(写真下手ですね……)

 ……。これがホロスコープなのかと初めて見て驚いたのですが、ハウスの区分だけがあって、サインも天体も区別がつかず、偏りだけが点で示されています。つまり、これを点の偏りだけでどのあたりに重さや緊張があるか読んでいくというスタイルなのですが、もはやカンディンスキーの抽象画の世界に通じるこのセンスが最高だと個人的には思ってます。

 クロムウェルは1・6ハウス強調のボウル型で、ジョーンズ曰く「強いオポジションを含むボウル型」です。ジョーンズは、形の分類はアスペクトも含めて使っていて、クロムウェルの例だと内面に強い緊張を持ちながら、ボウル側の半円を使って生きていく感じになります。

 まず、クロムウェルの政策としては(以下、どの人物についてもネットで調べた程度の知識ですが)航海法の制定があって、航海法は

当時、世界の海運を支配していたオランダの力を削ぐために、イギリスに入港してくる船を制限して、ヨーロッパの産物はイギリス船か産出国の船、ヨーロッパ以外の産物はすべてイギリス船に限る。

というもので、これによってオランダの中継貿易をできないようにさせ、イギリスは海運大国になっていくのですが、ハウスで表すと自らの力で(1室)働いて(6室)……という政策です。あと、クロムウェルは敬虔すぎる清教徒として過度の禁欲主義でもあり、娯楽の強制廃止をするあたりも6ハウス過多で、それによって4ハウス的な国内の安定や落ち着きを求めるのは行き過ぎるハードアスペクト感があります(ジョーンズはサインよりハウスを重んじて使っています)。

 そのボウル型が逆になると、たとえばリンカーン(アメリカ大統領)の例ではこのようになっています。

 ジョーンズ博士曰く「クロムウェルのなみなみと溢れそうな自己充足性と真逆のホロスコープ」で、火星がleading planetで活動宮・カーディナルハウスなので強い勢いをもって周囲に影響を及ぼす、ただし内面の葛藤には苦しみ続けると読んでいます。奴隷解放宣言はその雰囲気を強く感じるし、弁護士だった頃には正義感の強さで「honest Abe(正直者のエイブ)」と呼ばれたりなどもそれっぽいです。

 そして、天体まで含めたときに特に深い解釈だと驚かされたのは、イギリスのケープ植民地首相のセシル・ローズなのですが、ざっくりと大掴みに読んでこんなに深い解釈になるのがすごいです。

 セシル・ローズはロコモーティブ型で、木星が12室でleading planet、木星の拡大欲が強いです。ちなみにセシル・ローズはもともと南アフリカのケープ植民地でダイヤモンドの採掘で財を成して、それをきっかけに植民地の首相にまでなったのですが、これを「不気味な搾取と拡大欲」と表現しています。

 ディスポジターだと蟹座月も射手座木星と並んで強いので、蟹座月は内に取り込む(ジョーンズは蟹座を「Expansion:内輪に様々なものを取り込んで拡大する星座」としています)、射手座木星は拡大です。MC周りが欠けているので、社会の頂点にいることだけが欠けていると思ってそれを求めるようになる。

 ここまででも十分すごい読みなのですが、ここからさらにすごい解釈がでてくる……。まず、星座ごとに天体を分けていくと

水星座:蟹座の月・太陽・金星、魚座の海王星
地星座:牡牛座の土星・天王星・冥王星

火星座:獅子座の水星、射手座の木星
風星座:双子座の火星

のようになっていて、度数までみると蟹座の三つと牡牛座の三つの天体はかなり緊密に結びついているのがわかります。それゆえ、地星座や水星座的な現実社会的に広がりのある問題のほうが、火(自己探求)や風(抽象的な理論)より強い関心対象だったとしています(あるいは、手柄を奪うような読み方をさせていただくと、蟹:内輪の牡牛:資産みたいに読める。それが木星によって拡大するように働くみたいな。実際、セシル・ローズはケープ植民地のダイヤモンドや金鉱では飽き足らずに、新しい鉱山を求めてザンビア・ジンバブエを併合するなど周辺地域を次々と呑み込んでいる。どの天体も使い方ですが……)。

 あと、天体の意味を一つしか使わない読み方として魅力的なのは、ダンテ(『神曲』の作者です)のホロスコープで、こんな感じになってます。

 バケット型の柄は10室で、この柄は冥王星らしいです。冥王星は当時は見つかっていないので、ダンテのホロスコープはボウル型になります。ジョーンズ博士曰く「ダンテの精神はどこまでも中世主義で、迷信的で偏執的だったけど、19世紀の科学が全てに答えを出せる訳ではないとわかってきた時に、古い伝統的なものがより共感的に理解できるようになると、冥王星によるバケット型のダンテのホロスコープは文学と宗教の領域をつなぐような広くて深くて隠された中世の知性を表す人物になっていく(別の本ではエドモンド・ジョーンズは「冥王星は未知のものを表す」としているので、世界の頂点には未知なるものがいる)」。

 なんていうか、天体の意味をほとんど使わないのにこんなに深い解釈ができるのが衝撃というか……(ちなみにマーク・エドモンド・ジョーンズは博士号を取っているので、別に心酔している故に付けてしまったわけではなく、敬意からなのですが)。

 別記事であげたホロスコープも幾つかこの読み方で解釈してみると、こんな感じで見違えるように簡にして要というか、行動様式をうまく捉えています。

 まずは北原白秋のスプレー型なのですが、ハウスが分からないのでサインで読んでみると、山羊座と水瓶座に集中があるので、伝統の継承と本質化(継承は山羊、その中に本質を探り出すのは水瓶)にすさまじい能力を有する、みたいになります。

 つづいて王国維なのですが、こちらは天王星がhandleになっているバケット型です。バケット型はボウル部分の特徴も出るので、蠍座の月も含めて解釈すると「深い感情による新しい表現様式を確立したい人」です。

 さらにブロンズィーノのシーソー型では、ハウスも含めて読んでみると、9ハウスに蟹座があって、それと向かい合うように主に12星座の後半サインが並んでいます。後半のサインはより全体への視点を持っているような雰囲気があるのに、それが個人的な方面に使うハウスにあって、精神的な高みにある愛と逆に行きたがるので「地に堕ちた高尚性と規範的な愛」でしょうか……。

 最後にティントレットなのですが、これはたぶんスプラッシュ型です。スプラッシュ型は幅広い面で大きい成果を上げるのですが、その中でも特に偏りがありとその成果の核心が読めそうな気がします。ティントレットの例では、(ハウスは仮のものだとしても)特に冥王星と土星の合が目立つので「重厚すぎる秩序性を持つ」ですかね……(実際、ティントレットの絵は重々しい光と闇の交錯に、やや暴力的に絡み合う人々がぎっしりと置かれているような感じもあります。火星がその中に入るのでやや粗放で、天秤座オーバーロードだとそれらが絶妙な均衡に配されるみたいな細部の雰囲気も伝わって来て、かなり雑に読んでいるのに当たっている気がする)

 オーブも広めにサインごとに大きくまとめて読んだりしていて、雑に見えて、より抽象化されて全体の傾向などを捉えている読み方というか、表にみえる行動としてはどういう感じで最終的に出てくるかというのが感じられる気がします。

 ちなみに各天体や星座、ハウスの意味は後ろに小さく付録としてついているだけで、この読み方はエドモンド・ジョーンズとしては初心者向けに紹介しているらしいけど、12ハウスと12星座のみ覚えれば、天体は少しでいいというスタイルは、天体よりも星座になじみのある初心者でもわかり易い読み方だと思います。天体を区別せずエネルギーの偏りのように読んでいて、それなのに統合解釈がいきなりできるのも魅力的です。

 あと、余談なのですが、表紙の蟹がかわいい。蠍の足が七本だったり、上のほうに蜘蛛みたいな生物がいたりと、独特の雰囲気が気に入ってます。

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)の月天王星海王星合だったりします笑。 易・中国文学などについてのブログも書いてます

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA