音楽

アラン・トゥーサン 南風に死聲多し

 ニューオーリンズの音楽をホロスコープから読む記事、アラン・トゥーサンについてみていきます(前回のドクター・ジョンはこちら)アラン・トゥーサンはより優美で柔らかい雰囲気なので、ニューオーリンズの多彩さが感じられて楽しいです。出生図はこんな感じ(ハウスは推測)

 アスペクトの線が錯綜していてやや分かりづらいのですが、全体として地星座多めで、大きく分けると太陽・金星・火星・海王星のメディエーション、太陽・冥王星のオポジション(太陽を経て金星に流れる)の二つは金星にかかわるアスペクト、冥王星と土星のトライン、月・水星・土星のTスクエア、月・天王星のセクスタイルは月にかかわるアスペクトなので、それぞれのまとまり毎に読んでいきます。

 まずはメディエーションなのですが、例のごとくサビアンをみていきます。

太陽:山羊座25度 東洋のじゅうたんを扱う商人
金星:山羊座20度 歌っている隠れた合唱隊
火星:魚座19度 弟子を指導する巨匠
海王星:乙女座22度 王家の紋章

 なんとなく幻想的なサビアンが多いですね。まず、アラン・トゥーサンの曲調については幻想的・異国趣味・耽美的というイメージが多いのですが(ドクター・ジョンは土着的・魔術的)、異国趣味の幻想を感じるのはやはりこれです。

 この曲はコード進行がⅠm-Ⅵ♭を繰り返していて、コードがⅠmのときにベースの短6度がかなり長く鳴っているのが異国的な雰囲気を作っていると思うのですが(通常はベースは1,3,5度あたりを鳴らすことが多く、それ以外の音をあまり長く鳴らすことはブルース由来で生まれた音楽ではほとんどない)、アメリカで生まれた音楽には見られないフレーズを敢えて繰り返すことで一気に異様な感じになります。

 ちなみにこれによく似ている曲を偶然見つけたことがあるので載せておきますが、今回の記事を書くために改めて調べてみて似すぎていて驚きました。

 この曲は、ブラジル北東部のノルデスチ(Nordeste:ポルトガル語で北東部の意)というジャンルで、古いヨーロッパの音楽(ポルトガル由来?)、アフリカ音楽、原住民の音楽が混ざって生まれていて、形は違ってもニューオーリンズの音楽と近い背景を持っているのですが、メロディーはマイナーペンタ主体で(短6度は含まない)、コードはおそらくⅠm‐Ⅵ♭の繰り返しなので、あのアラン・トゥーサンの曲と同じ雰囲気になると思っています(ノルデスチすべてが似ている訳ではないです。コードは一部略してます)

 太陽のサビアン 東洋のじゅうたんを扱う商人は、山羊座25度の秩序がきれいに整って、異質なものも溶け込ませている様子なので、異国の音楽に擬した曲を入れながら、それ以外の曲も入れて一つのアルバムにしている感覚はこれに依っていそうです(それぞれのサインの質感がよく現れたサビアンでも、1度は一人で始める雰囲気、25度は多彩な物を兼ねる雰囲気、30度はそれぞれのサインの尊格化された雰囲気だと思ってます)

 つぎに読みたいのは魚座19度の火星なのですが、情熱というより情念・情感の濃鬱で濛々(もやもや)と水気の立ち籠めたような思いを渦巻かせて、伝統を深く受け継ぐこと、みずからも伝統の中に溶けていくことを深く望む(牡羊座というより水星座の蠍座火星に近いけど、一人の相手というより形のない靄のような中に入りたがる感じですかね……)になると思う。

 これが海王星:乙女座22度 王家の紋章とオポジションなので、調和に包まれて閉じた世界の形を整えることと、その中に漂っている伝統がもやもやと溶け合い滲み合い、あるいはぼったりと大きい溜り水になったり、あるいは淵と淵が繋がりながら、金星:山羊座20度 隠れて歌っている合唱隊のように一つの優艶にして自然な雰囲気になりそうです。

 蟹座30度の冥王星のサビアンはアメリカ革命の娘ということで、みずからの属する共同体を大切にしたい蟹座の極まった様子とすると、多彩なものを一つの秩序に含みたい太陽に、その体系を閉じることを求める意味になるかもなので、このように読んでみると金星にかかわるアスペクトは多彩な広がりを含み込んで閉じた秩序という意味で、それで雰囲気づけして落ち着いて整えられた山羊座の美意識を飾ることが近いと思う。

 ニューオーリンズはラテンの北縁にして、色々な曲が流れては溜まる街というのがアラン・トゥーサンのニューオーリンズへの気持ちだとすれば、ドクター・ジョンは街の中にあるざわめきを好んで描いているので、アラン・トゥーサンは外向き、ドクター・ジョンは内向きにニューオーリンズを感じているのかもです。

 ちなみに、火星と金星が出てきたのでリズムとメロディーの話を書いておくと、ドクター・ジョンとアラン・トゥーサンは金星がほとんど合なので、二人のメロディーはよく似ていることになって、聞いてみると規則的なフレーズの中に少し不定形な音が挟まれるのは近くて、ドクター・ジョンは火星が牡羊座なので小さく切るようにして暗い曲でも不思議な明るさが入り、アラン・トゥーサンは魚座なので深く繋がったようになっていて、同じく古い黒人霊歌をピアノだけでカバーしたものですが、山羊座金星と乙女座海王星のトライン(典型的な芸術家アスペクト)もあって古雅にして隠約、不気味なほど優美です。

 あと、火星のサビアンで伝統に吞み込まれたい願望と、金星の優美な彩りを儀式を飾るように重ねてみたいセンスが混ざりあった作品としては、プロフェッサー・ロングヘアのカバー曲「Big Chief」が思い浮かんで、もともとラテンのリズム(主にキューバ音楽で、3・3・2の形にリズムを分ける)をニューオーリンズでピアノに取り入れた最初の人がプロフェッサー・ロングヘアと言われてて、原曲ではメロディーが全篇哀しいほどに明るい繰り返しだったけど、アラン・トゥーサンは陰晴不定の趣きを載せています。

 というわけで、月に関するアスペクトを読んでいくのですが、まずは土星の雰囲気にどのように冥王星が絡んでいるかをみていきます。

水星:山羊座2度 三つのステンドグラス、一つは爆撃で損傷している
土星:牡羊座1度 女が水から上がり、アザラシも上がり彼女を抱く
天王星:牡牛座10度 赤十字のナース
冥王星:蟹座30度 アメリカ革命の娘

 土星のサビアンは、まだ生まれたばかりの存在が曖昧で、水にいつでも帰りそうで自然(アザラシ)と分かれ切らない姿らしいので、冥王星からアウトオブサインのトラインでは、生まれたばかりの危うい存在は(牡羊座土星)みずからの属する共同体に支えられる(蟹座冥王星のトライン)と読んでおきます。牡羊座土星は存在を安定させるのがやや難しいけど、冥王星に守られる感覚です。

 その土星は、月と水星にそれぞれスクエアで噛み合わない否定をしているので、水星のステンドグラスは内側には綺麗で整った装飾だったのに、違う文化の人から一部を壊されて傷付きつつまだ美しさを失っていない様子とすれば、山羊座の伝統や積み重ねられた価値観に飾られた言葉は、そもそも外の人には分かり難い(山羊座2度)上に、共同体に支えられて危うい在り方をなんとか保っている(蟹座冥王星がトラインの牡羊座土星)という気持ちでみているのかもです。月の度数はかなり動くけど、オーブも広く取れるので仮にTスクエアだとすれば、蟹座らしい共同体(ニューオーリンズの街)の安心感を求める月、共同体に漂う伝統や価値観は外の人には分かってもらえないと知っている水星、そもそも共同体を失うと自らの在り方すら危ういと思っている土星という感じで、共同体にすごく頼っているタイプだと思う。

 天王星は牡牛座なのですが、牡牛座と天王星って解釈が本当に難しいですね……。感覚について新しさを持っているという意味とすれば、音の雰囲気が官能的で美しい(牡牛座)のに今までにない印象(天王星)という感じでしょうか。あるいは赤十字のナースがサビアンなので、他の人のために優美で美しい音を入れるようにするのが新しさの出し方だとすれば、プロデュース方面でニューオーリンズ風味の音を入れて(ザ・バンド『Rock of Ages』などが有名。歌っている後ろで不規則に喋ったり煽るようなホーンが鳴る感じはそれっぽい)元の素材を生かしつつニューオーリンズの音を継いでいく(天王星と月のセクスタイル)という現れかもです、月の度数は不明なのでそもそもアスペクトが違うかもですが。

 月のアスペクトを読んでいくと、ニューオーリンズには儚げで脆い感覚を持っていそうですね。ドクター・ジョンは土着的であちこちに蕪雑に育っているのがニューオーリンズらしさと思ってそうだけど、アラン・トゥーサンはふわふわと柔らかく漂っては消えつつ濃艶な色みたいに感じてそうというか。

 その感覚がよく現れているのがアラン・トゥーサンの代表曲とされている「Southen nights」ですが、昔クレオールの老人が街のはずれの水辺で手招きしては柳の下の夕暮れでうまく聞き取れない言葉でなにかを語っていた思い出を描いた曲らしくて、歌詞を少し載せておきます。

Southern nights
Have you ever felt a southern night?
Free as a breeze
Not to mention the trees
Whistling tunes that you know and love so

Southern skies
Just as good even when closed your eyes
I apologize
To anyone who can truly say
That he has found a better way

Old man
He and his dog they walked the old land
Every flower touched his cold hand
As he slowly walked by
The weeping willow would cry for joy

Mysteries
Like this and many others in the trees
Blow in the night
In the southern skies


南の夜は、君は感じたことはあるかな?
風のように駆けめぐり
木々の間をすり抜けて
歌う歌はきっと君も知っているし好きな歌だろうから

南の空は、たとえ目を閉じても美しいのだよ
きっと誰もがそれを聞けば
いいことを聞いたと思うくらいに

老人は犬を連れて、古い茂みだらけのところを行くと
そのひんやりとした手にはいろいろな花が触れて
その歩くそばで物悲しい柳まで喜びのあまり泣きそうになって

不思議なことはこの木の中や他のたくさんの木の中にあって
風にゆれては南の夜に満ちているから

 見えないものを伝えたくて、目を閉じたり、木々の間の夕闇に吸い込まれそうになる気持ちは殆ど伝わらない追憶の中にあって、その言葉を解せる人もいない儚さ、さまざまな音や荷物が流れて来て優美に閉ざされた一つの小院のような雰囲気になっていそうで、柳川、ヴェネツィア、ニューオーリンズと水の廃市はなんとなく美しいと思う。どれも行ったことないのですが。

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)の月天王星海王星合だったりします笑。 易・中国文学などについてのブログも書いてます

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