サビアンシンボル

The Empyrean

 牡羊座29度のサビアンシンボルは「天球の合唱隊」なのですが、このシンボルを聞いて真っ先に思い出すのは、ジョン・フルシアンテのアルバム『The Empyrean』だったりする、という話を書いていきます。

 まず、ジョン・フルシアンテというミュージシャンを殆どの方は聞いたことがないと思うのですが、たぶん演奏は聞いたことがあると思います。

 この曲の前奏で鳴っているギターがジョン・フルシアンテと云われれば、あぁあの曲……とほとんどの方がなると思うのですが、ジョン・フルシアンテはレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(海外ではRHCPと略します)のギタリストとしての曲以外にソロアルバムも出していて、今回紹介する『The Empyrean』はソロ作品の中でも最高傑作と評される一枚です。

 とりあえず、一応ここは占星術ブログなのでジョン・フルシアンテのホロスコープを載せておくのですが、出生時間が不明なので、もし午前中に生まれていたら……という感じで話をしていきます。

 まず、とりあえずみていただきたいのは火星のサビアンシンボルで、(ここに出しているチャートとは少し違うのですが)火星は牡羊座29度にあったかもしれないです。さらに水星は水瓶座30度にあったと思われます。

 このチャートと『The Empyrean』の関係を書く前に一通りこの人の略歴を載せておいたほうがわかりやすいと思うので書いておくと

1970年生まれ
1988年:レッド・ホット・チリ・ペッパーズに加入
1992年:重度の薬物中毒によりグループ脱退
(しばらく薬物により廃人状態、活動は停止)
1999年:レッド・ホット・チリ・ペッパーズに再び加入
2004年:6ヶ月連続のアルバムリリース(一ヶ月に一枚作っている……!)

……という流れを経て、しばらく間をあけて2009年1月に『The Empyrean』発売(制作は2006年12月~2008年3月)です。

 なので、上のチャートでは『The Empyrean』制作中の2007年1月で出しているのですが、ちょうどこの頃は射手座の末期度数にあった冥王星がジョン・フルシアンテの水星(水瓶座30度)と火星(牡羊座29度あたり)とミニトラインを作っているのがわかります。

 ところで「Empyrean」という言葉はいま一つ馴染みがないと感じると思いますが、古代ギリシャ・ローマの世界では純粋な火と光に満ちた理想の場所、あるいは最高天、中世のキリスト教では神の居所・天宮のような場所とされています。そして、このアルバムのジャケットなのですが、

……もはやミケランジェロの宗教画のような世界観で、奥にあるのが天宮です。音楽としては美しいを超えてほとんど崇高の域にまで入っているというか、こういう作品はほとんど出会ったことがないです。ちなみに今回関わってくる天体のサビアンはこんな感じです。

水星:水瓶座30度  花咲く神秘の野原
火星:牡羊座29度  天球の合唱隊
トランジット冥王星:アルバム制作期間中に射手座28~30度を移動
(射手座28度:美しい流れにかけられた古い橋
 射手座29度:芝を刈る太った少年
 射手座30度:法王)

「水瓶座30度  花咲く神秘の野原」はアーダスという花が咲いている古代バビロニアの神秘的な牧草地とされていて、人間の普遍的な魂の集まっていく場所です(普遍的なものをあらわす水瓶座の最終度数)。「牡羊座29度  天球の合唱隊」は「牡羊座30度  アヒルの池とその雛(牡羊座的な自然のままでの調和の最後の姿。一方の天秤座は人工的な調和)」の一つ前ということで、自然のままの調和の後ろにある神秘的な天鈞(天のつくる釣りあい)みたいな意味です。

 この二つがトランジット冥王星が「射手座28度:美しい流れにかけられた古い橋(古くからある伝統的な方法によって彼岸にわたる)」、「射手座29度:芝を刈る太った少年(恵まれた環境にある者が庭の手入れをするように自分の世界を完成させていく)」、「射手座30度:法王(深い精神性の世界においてもっとも高いところをみる)」のような流れを作っていくときに、天界逍遥の物語とみずからの精神を蘇らせる旅を描いた最高傑作の宗教音楽的なアルバムになる、という暗合があまりに不思議というか、怖ろしいくらい重なっている気がします。

 というわけで、『The Empyrean』の内容について書いていくのですが、まず曲はこんな感じです。

1. Before the Beginning 9:09
2. Song to the Siren 3:33
3. Unreachable 6:10
4. God 3:23
5. Dark/Light 8:30
6. Heaven 4:03
7. Enough of Me 4:14
8. Central  7:16
9. One More of Me  4:06
10. After the Ending 3:38
11. Today(日本盤のみ)  4:38
12. Ah Yom(日本版・I Tunesのみ) 3:17

 これを見てもらうとわかるのですが、一曲目・三曲目・五曲目・八曲目に長い曲があって、その間に短い曲が挟まるような構成になっています。個人的にはその大曲がどれも珠玉のクオリティになっていて大きい場面を描いている(その間の小曲が、場面をつなぐような歌詞をもっている)気がしています。

 まず「1. Before the Beginning(始まりの前に)」を聞いていただけると(聞かなくてもいいのですが)これはたぶん春のまだ霧が晴れない頃の芽が出る前の季節のような場面(ジャケットでいうと下の方で土に寝ている姿)を描いているというか、こういうときに天界に旅をしたくなるという場面だと思います。

 そして「3. Unreachable(届かないもの)」なのですが、ここで早くも魂は天界に昇ります。その歌詞がなんていうか

One time
Hit me where I turn white
I don’t mean to be polite
Uniform
Spinning the world to the beat of my drum
Uniform

かつて私はぞっとしていた。だからといって大人しくなる気はなかったのだけど。
世界はひとつにまとまろうとして私の背中を叩いていたのだけど
ひとつにまとまろうとして

Reach into the darkness
For what you can find
Travel great distance in your mind
The world gets stronger
As you start trying things
Turn around towards being born
Away from dying

暗闇の中で君が見つけようとしたものを見るために
とても長い路を君の心の中で旅をして
世界はさらに強くなって
それは君が何かを始めたとき。
また死から遠ざかって生きようとしたときに

Hey
Shoot me
Hey
Shoot me, shoot me, shoot me

運命よ、私を撃て、早く撃て、私を撃って

 たぶん誤訳しまくりだと思うけど、薬物中毒で潰れていったときから再び世界に舞い戻るとき、自分の中で二人が話し合うとしたらこういう言葉だったのかもしれない、みたいなことを思ってしまう歌詞だったりするのです(もっとも、ふつうはこれを最後に置くかもしれないのに、あえて三曲目にこれがあるというのが『The Empyrean』の恐ろしさだと思っていて、天界に行ったあとに何が待っているかを描いているところが、どこまでもぞっとします)。

 というわけで四曲目「God」なのですが、また歌詞を一部訳してみるとこんな感じです(もはやこの記事は誤訳は気にしないで書きます。もともと自分の英語の読みなんてめちゃくちゃなので……)。

When the fog spreads out in the rainy season
It comes from my insides
When the thunderous lightning strikes down
You’re seeing your real I

雨の季節に私のまわりに霧が立ち込めるとき
その霧は私の中から出てきたものなのだけど
そんなとき雷が私を打って
あなたは情けなく焼け焦げた私をみるのでしょう

Creation’s not something I did it’s something that I do, Oh
The reason for the bad is so there’d be such thing as good
Oh I’d do anything for you, you all know I would

Be for me
Be for me
Be for me

何かをつくるというのは私がやったことではなく、私がするべきことだったのに
悪い理由もいいものと同じようにそこにあって
私は君のために何だってするし、君はわたしのことを信じてくれるだろう

私になるために、……、……

 この歌詞を天界の恐ろしく強くて冷たい風のような音に重ねて作ったところが、天宮のどこまでも辿り着けずに寒くて恐いところに似合っていると思ったりするのですが、そんな天界の縁から流れ落ちる水のそばを何とか歩いて平坦な草の上にくると、また大曲「Dark/Light」が始まります。

Did you ever notice
That it’s for you that I’ve lived my life
Every time I had fun you were on my mind
I’ve lost my perspective, I’ve gone off the wall
Really not sure if I’m needed here at all

君はもう知っていただろうか
私が生きてきたのは君のためで
君が心の中にさえいればそれで幸せだったのに
いつの間にか目を失って、壁の中から出て行って
それで此処でも大事にされているかわからないなんて

Will we ever get together?
(In a song, in a song, in a song)
Will you ever tell everyone
(‘Bout right and wrong, right and wrong)
Will you let everyone in on
(The meaning of life and death)
Do you need me or are you waiting
(For my last breath)

もう一度私たちは一つになれるのだろうか
(一つの歌の中で)
君はもう一度正しいことと間違っていることを云えるだろうか
君はまた皆なに生きることと死ぬことの意味を云えるだろうか
君は本当に私を求めてくれるのか、あるいはもう私を捨てていくのか

 ……占星術系の記事を読んでいると、ある種ありきたりすぎる主題を書いている感もあるけど、この「you」は何て訳せばいいのか、強いていうなら「運命」みたいなものと話しているのか、顔を隠してどちらが本体かわからなくなった自分の幻をみているのか、みたいな様子の会話にみえたりします(個人的な感想です)。

 この後、5分くらい聖歌隊のような曲が流れるのですが、この音こそ牡羊座29度:天球の聖歌隊だと思っていて、みずからの生き方の自然な姿をどうやって裏付けるのか、そもそもそんなものはあるのか……という懊悩の音みたいに聞こえたり(これを天界逍遥の物語に重ねて描いたのが『The Empyrean』の究極性だと思います)。

 そして天界にも夜が来て、その日にみてきたものを思い出しながら静かに空をみるような曲で、個人的にはアルバム内でかなりの名曲だと思っていて、歌詞はこんな感じです。

Well I spent the night in Heaven
I wanted to figure it out by myself
I spin around the fortress
You never know the currency that we all run on
We run on
We run on

天界の夜にて自分のことをみてみたいと思っていた。
古い天宮の砦のまわりをまわりながら
あなたはきっと私がどれほどそれに思いをつぎ込んだかしらないでしょう

Well, I don’t need protection
When life begins, another dies, bad timing
I won’t last, man that’s the facts
It is a feeling that will never pass

And you know you could be taking us far
When I speak to you again through the stages of pleasure

Well I don’t have my own face
So come on and be replaced
There’s a future that’s calling
But I don’t see it coming

もう何にも守ってもらわなくてもいいから
人が生まれたとき、そして死ぬとき、それはどちらも思うに任せぬこと
私はいつまでも生きられないでしょう、
この悲しみはずっと消えないもの

そしてあなたはそんな私を遠くに連れていってくれる人
あなたと話すときは喜びの世界にいるのだから

私は自分の顔をもたない故に
ここにきて生まれ変わったと思ったのに
私が呼んだ未来は迎えに来なかったのだけど

 かなり歌詞から離れた話になるけど、エッセンシャル・ディグニティ的にいうと火星座(ここでは射手座・牡羊座)って木星と太陽がトリプリシティ、風星座(ここでは水瓶座)って土星と水星がトリプリシティで、さらに風星座の水瓶座・天秤座では太陽が弱くなるように、このときのジョン・フルシアンテのホロスコープ上で特に目立っていた射手座・水瓶座・牡羊座のミニトラインって、自身の存在(牡羊座/太陽)についての抽象的な意味での裏付け(水瓶座/土星)を探す旅(射手座/木星)みたいな組み合わせなのかもしれなくて、ふつうに火星座の射手座・牡羊座だけだとこういう抽象的な意味付けみたいなものを求めるよりもとりあえず旅に出てみるみたいになりそうです……。

 そして天界の中心にきて、天宮の中に入ったときの様子が描かれるのが「Central」なのですが、

We should be grateful to the gods
Whoever they’re real to they are
I value my placement as in Hell
Remember that moment that I fell

私たちは神に感謝しなければならない
そのまま存在している神に
今の世界が地獄だと感じたときに
その地獄に落ちた日のことを思い出すために

I’m dreading a time that is not near
As a man on a cross I have no fear
I can’t believe these words I’m saying
You gotta feel your lines
You gotta feel your lines

私はここにはない日のことをずっと恐れて
磔けにされた人の穏やかさを真似しながら
この言葉すらも信じられず
君の思いだけを信じるしかないのに
それだけを信じるしかないのに

 ……この自己矛盾によって世界が壊れていくような美しさ、あるいは天界の玉宮すら溶かしていくような歌詞、みずからの在り方の抽象的な意味付けを探していたとき(出生図の牡羊座29度と水瓶座30度)にトランジット冥王星が運んできた射手座28~30度のエネルギーがさらに高くて遠い世界、抽象的な意味づけが世界のすべてに溢れすぎている天界からの景色をみせるような夢、とでもいえるアルバムになっている気がする。

 天界の美しさに癒されて幸せな時間を過ごして終わった、そこにはすべての救いと穏やかさがあった、みたいな話にずっとならずに、天界の風は怨酷なまでに冷たくて、天界の夜は怖ろしいほどに暗くて、天界のものは何をみても答えをくれず、天界の玉宮は冷たすぎて閉じ込められたままでは息もできずに死んでしまうほどなのが天界の姿(ジョン・フルシアンテの見た天界)だとしたら、静かな安住の地ではなくて、どこまでも旅をして高みの果てに天界すら捨てて旅を続けなくてはいけない、そのためには古くから用いられてきた題材(射手座28度)としての天界逍遥(天界には白くて冷たい露を帯びたアーダスの花がきっとどこまでも広がっている場所もあるし、天宮の壁はアーダスのように透きとおった冰の色をしているかもしれない)を描きながら、それすらも離れて高みに入ること(射手座30度)がみずからの存在の抽象的な裏付けを得ること(牡羊座29度)みたいにみえるのですが、末期度数はどの星座もちょっと怖ろしげなものがある中でも、射手座の安らげないまま何処かへ旅するときの心にこそ安らぎと喜びがあるというのが怖いほど(冥王星的に)描かれているアルバムだなぁ……と思います。

 ……これでアルバム本編は終わりになるのですが、後日譚のような曲が日本版にはボーナストラックとして入っていて、これが或る意味では作品の本質を描いている気がするので載せておきます。

Look out and see ‘cause the city has no people
They don’t know who you are but they know who you will be
Monsters of all colors and we’re all distorted energy

街をみてみると誰も人がいなくて
その人たちはきっとあなたが誰なのかを知らないまま
あなたがきっとどうなっていくのかを知っているのでしょう
きらきらとした緑をゆがめられたエネルギーが渦巻く季節に

I am divorced from the image I’ve created
So many nights and days that are separate from the ages
Thank you for the lessons that I learned while John was sleeping
Whoever it seemed the Creator did the teaching

私はいままで作ってきた幻影を捨てたのだけど
それは宇宙の運りから隔てられた月日のこと
ありがとうと言いたいのは、ジョンの眠っていた間に降りてきた数々の学び
造物主の教えたことなのかもしれないけれど

「Monsters of all colors and we’re all distorted energy(きらきらとした緑をゆがめられたエネルギーが渦巻く季節)」って、ちょうど4月20日あたり(牡羊座30度:アヒルの池とその雛)あたりの風光にみえるのですが、牡羊座の自然のままでの調和の完全な姿が作られていく前の天宮の夢が「The Empyrean」で、それをみた後の「Today(今日)」がこの生々しい力に溢れた音になっている、みたいな組み合わせも不思議な繋がりを感じたり……。

All of the energy in life
Is nothing more than a spark in a fire
The whole course of time is the blink of an eye
(もう一つのボーナストラック「Ah Yom」から)

人生のすべてのエネルギーは
一つの瞬きの炎でしかないのだけど
生きている間のことは一つの瞬きのうち

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)の月天王星海王星合だったりします笑。 易・中国文学などについてのブログも書いてます

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