音楽

ドクター・ジョン 聞き取れないざわめきを聞けば

 今回からニューオーリンズの音楽について書きます(ホロスコープを通じて)

 70年代のニューオーリンズは、ドクター・ジョンとアラン・トゥーサンの二人が双璧だと思っているのですが、この二人は似ているような気もするし、かなり色々違いがあるような気もして、その違いや似ているところも占星術で読んでいきます。

 というわけで、ドクター・ジョンなのですが、出生図はこんな感じです(ハウスは推測・マイナーアスペクトも使います)

 とりあえず大きく分けると、太陽につながるメディエーション・冥王星と個人天体たちという組み合わせ、地星座多めという感じです。まずは太陽についてサビアンをみてみると

太陽:蠍座30度 ハロウィンの悪ふざけ
土星:牡牛座25度 大きく手入れの行き届いた公共の公園
天王星:牡牛座29度 テーブルの働いている二人の靴職人
海王星:乙女座30度 聞き取られなかった間違い電話

 太陽のサビアン ハロウィンの悪ふざけは、もはやそのものという感じで、1stアルバムの中の一曲から、それっぽいのを載せておきます。

 1stアルバムがこれって、色々な意味でよく通ったよね……ってなるけど好き。でも、このジャケットは手に取る人いるのかなと不安になるけど、そもそもドクター・ジョンという名前は、19世紀のブードゥー教(西アフリカの民間信仰が、ハイチでキリスト教と習合して現世利益のための儀式や呪物を大切にする民間信仰になってニューオーリンズにも流れ込み、似たような起源をもつ信仰をブラジルではカンドンブレ、キューバではサンテリアと称する)の司祭に由来があって、1stアルバムはニューオーリンズのヴードゥー世界を感じさせる曲を集めていて、ふざけているようでもありつつ独特の濃鬱な魅力がある。

(ニューオーリンズは、ラテンアメリカのブードゥーが入ってきたので、アメリカの中では例外的にブードゥーが流行っていたけど、少し北になると殆ど流行らないので、ニューオーリンズはラテンの北縁みたいによく云われる)

 あと、ニューオーリンズでは謝肉祭を「マルディグラ」といって、肉を謝(辞)す潔斎の前に思う存分甘餐の毒薬を飲んで、腸を腐らせるくらい享楽しておくという期間なのですが、多くは「カーニバル」と呼んでいて、奇麗な鳥に扮するようにして遊ぶリオデジャネイロのカーニバル、曲房隠間のような街に目を惑わすような仮面を着けて遊ぶヴェネツィアのカーニバル、きらびやかで南国の太陽のごとく透き通ったスティールパンの音が似合うトリニダードのカーニバルなどが有名です(有名なカーニバルはラテンアメリカに多いかも)

 ハロウィンの悪ふざけって、ハロウィンが元々は秋の終わりに死者や悪い霊が帰って来るので、その怖さを却ってみずから死霊に擬して畏れながらも楽しむという起源があるとすれば、一種の祝祭としては謝肉祭の狂乱も似たような雰囲気がある(12の月の永劫回帰

 一年の平凡な時間で静かに溜まったエネルギーを、たった数日の狂乱の中で燃やし尽くして、その快楽の余韻で一年をまた生きていくことが、ハロウィンだったりマルディグラ(カーニバル)だったりすると、ニューオーリンズの俗悪で古雅な祝祭のような音楽を作りたいというのは、ドクター・ジョンの感性らしくてすごく似合うサビアンです。

(この話で思い出すのは、エウヘーニオ・ドールスという美術史家が、スペインかポルトガル辺りの祭りで、一年かけて作ってきた巨大な人形を、祝祭の日にばちばちと大きな火柱にして、それを村の人たち全員で眺めて楽しむというエピソードで、無意味な狂乱の楽しみは永遠につづく宇宙のゆがみが絡み合ってはほどけていくような趣きがある)

 それに合わせて周りの天体を読んでいくと、土星の大きく手入れされた公共の公園というのは、祝祭を含んで伝統に守られて(土星)古めかしい色彩や骨董に飾られた街(牡牛座)、天王星は少しずつ変わるために靴を作って新しい世界向かいながらもゆっくりと僅かな移り変わり、これが蠍座30度とオポジションなので永遠につづくように時間が止まって、毎年の祝祭を経ているようで、それなのに水路に溜まった泥のようにわずかに流れる感じで、メディエーションに海王星が入るので、目の前のことに気を取られて気づけないものがある乙女座30度 聞き取られなかった間違い電話のごとくぼんやり過ぎていくという感じだと思います。

 ちょっと音楽にかかわることを書いておくと、ニューオーリンズの音楽に基調になっているリズムに「セカンドライン」というのがあって、70年代にそれをファンク化したのがニューオーリンズファンクという説明がされるけど、ニューオーリンズファンクとふつうのファンクは何が違うのか疑問に思う方がいそうなので私見を書いておくと、ニューオーリンズファンクはリズムの弾み方で山の部分が大きい弾み方、ふつうのファンクは跳ねるけど大きく跳ねすぎないで、低く前に跳ぶような形の跳ね方みたいに思ってます。

 セカンドラインというのは、ニューオーリンズで葬列の後ろについてきた楽団が帰り道に明るく跳ねまわるような曲を流したときに「第二の葬列(の曲調)」みたいな意味で使われる言葉で、身体を沈めるように踊る感じになるのだけど、さっきのブードゥー調の曲でも不規則に絡んでくる跳ねの大きいリズムはセカンドラインと同じで、この蕪雑で未整理な雰囲気がもともとのセカンドラインだとすると、よりファンク寄りに洗練するとこういう感じになります。

 もはやほとんどふつうの曲っぽいけど、ドラムの細かいフレーズの雰囲気を覚えておいて全篇に重ねてみると、意外と丸みの大きい跳ね方(?)をしているのが感じられると思います。これをふつうのファンクと比べてみると、叩き方をファンク寄りにしているけど本質はセカンドラインという感覚があります(あくまで私見ですが)

 そんなわけで、太陽につながるアスペクトは大体読み終わったので、つぎは冥王星と個人天体にいってみます。急に余談だけど、この人の自叙伝では自身の祖母がヴードゥー教の術師でテーブルを猫のように歩かせたり、ブードゥーの薬を周りの人に与えていたり、ドクター・ジョンは10代の頃からドラッグに浸っていたり、毎日のように銃を使う喧嘩が起きていたニューオーリンズでみずからも指を怪我したり……と、色々荒んでいたり不気味な話が多く入っているらしいけど(未読)、そんなニューオーリンズを心の底から愛していて、全然悪く言ってないらしいのがすごく不思議で、もしかすると個人天体のアスペクトはそれかもです。

 まず、金星と水星の組み合わせがそれっぽいのでサビアン含めて読んでいきます。

水星:蠍座14度 仕事中の通信技術者
金星:山羊座17度 密かに裸で入浴する少女
火星:牡羊座12度 野生の鴨の群れ
木星:双子座19度 大きな古典書物
冥王星:獅子座6度 時代遅れの少女と最先端の女

 金星のサビアンは蟹座要素のある山羊座ということで、集団の中でも感情をひっそりと持つ姿、水星は狭い間で滑らかなコミュニケーションをしている様子で、この二つがソフトアスペクトで結びついているのですが、興味深いのは木星がバイクインタイル(144度)で水星と繋がっていることです。

 マイナーアスペクトは「言われてみればそういう関係かも」くらいの現れ方をするイメージで、クインタイル・バイクインタイルはどちらも表現・遊び心を持って……という意味なのですが、古めかしい古典書物のような表現で、狭い中に電信のようなするすると流れるコミュニケーションを深めるという雰囲気がよく出ているのは、この歌詞です(初めて聞いたときは何て退屈な曲という失礼すぎる印象だったけど、今から聞くとすごく上質な時間です…)

Such a night, it’s such a night
Sweet confusion under the moonlight
Such a night, such a night
To steal away, the time is right
Your eyes caught mine, and at a glance
You let me know that this was my chance
But you came here with my best friend Jim

If I don’t do it, you know somebody else will ……

そんな夜には、甘い混乱が月明かりの下にはあって
そんな夜には盗み出したくなるような夜で
ちらりと此方をみてきたので
今しかないと云われたのだけど、
でも親友と来た人を、ね……

こうしていると他の人が盗み出すのだろうけど

 古めかしいというか、月の光が黄色くて明るいというか、金星のような月の色で、語彙は少ないのに、むしろそれが古艶な雰囲気を作っていて、同じ歌詞を重ねるだけというのも古雅な含みがあっていいです。あと、金星色の月というのも謀らずしてアスペクトに近い風景になっている例のようで、月が金星と合していると古い街の中に圧し籠められた感情たちが古めいた言葉でするすると流れながらも狭い中で喋々と深まっていく様子を思わせます。

 冥王星はそうなると外の世界の移り変わりを感じること、火星は野生の調和・自然への憧れと読そうですが、ややオーブが大きくて5度の区切りを跨ぐので滑らかには繋がらなくて、仮に冥王星を獅子座12度で考えてみてその後に意味を少しずらして調整するという方法で読んでみると(アウトオブサインやオーブが大きいときは、意外と使いやすい技だと思っている)、獅子座12度は「宵の野外パーティー」なので野生の調和を帯びた鴨の群れのいる木々の茂った淀みのある川、それを望むような庭付きの家でまだ明るい夏の夕方に開かれる野外パーティーという組み合わせ、そこでは街の雑踏や夕方の塵もよく見えて……という風景で、古いニューオーリンズの一つの姿かもです(想像ですが)

 そんな街が時代の変遷であるいは取り残され、あるいは一部がなくなってしまうことがある(冥王星)中でも荒々しい自然(牡羊座火星)の調和は残るけど、その危うい調和の中に秘かにあった美しい感情(月・金星合)は古い完成された過去の世界(山羊座)に残りつづけるというスクエアの不整合が入っている(ドクター・ジョンはマルディグラの衣裳でステージに上がることも多いけど、荒々しい生命を感じる祝祭の姿で、完成された文化を表現するというスクエア感があるような……。繋がりやすいトラインの牡牛座は優美さを出したり、乙女座はより再現的になりそう)

 こんなふうに読んでみると、どこまでも古いニューオーリンズに浸って生きている人なのかもと思ったり、まとまりのある組み合わせに感じますね。余談ながら、火星をリズム、金星をメロディー、水星を歌詞とするとこの曲が近いかも。

 ピアノだけでカバーしている古い黒人霊歌で、水星は入ってないけど、いままでの例で口内の唾液の感じまで伝わってくるような訛声(とても美しい)は蠍座らしくて、短く切れるリズムは牡羊座火星、きっちりとした中に時折水星座ふうの不規則なフレーズが入る山羊座第4グループの金星を混ぜた曲というのも改めて聞くとそれらしいです。

 あと、冥王星と土星のクインタイルは、ニューオーリンズの移り変わり(冥王星)を含めて美しい街(土星)という感覚、リリス:牡牛座22度 荒れた水の上を飛ぶ白い鳩は、雑多で不気味なものに満ちた古いニューオーリンズで生きていく楽しみにみえてきて、色々と土着的で恐ろしいホロスコープだと思います。

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)の月天王星海王星合だったりします笑。 易・中国文学などについてのブログも書いてます

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