サビアンシンボル

サビアン詩集

  紫蠍宮  第一篇

伝え得ぬもの、一人眺むる旅の窓、秋の雲のあざやかさ、白さ、果敢なさ、吾を知る人ひとりなき山路ゆくバス。

街の灯かりの雨り、夜の街灯(あかり)は銀の鏡、見ずにゆられて疲れけり、腸のごときの山路ゆく日はのどやかに静やかに。

寄りがたく、ゆかしきものは、重ねたる綾、離れゆく香り、割れたる瓶より溢るる泪、もれる溜息、鳴かぬ鳥、問いかけて珠簾のうちにある人の影。

バスは入る山間いの村、茅葺きの屋根 高く重く、木々の肋の傷みを知らず、茅刈りて、ち茅生えいづ、茅の根の水に戯れ水をわきて、流るる水脈に香り澄みたり。

恐ろしきもの、天垂(そらみ)つ星の雨のごとく霞のごとく雲のごとく、涌き出で曇り、荒涛の岸を削りて尖れる岩の猶とがりて岩も痩せたるその姿、巨鴻(おおとり)の謦(しわぶき)、嚏、痰を吐く音、詰まらせる音、巨鴻に拐われる子。

おそろしく美しきもの、愛祈る護摩を焚く烟、つややかなる仏尊、もの黒き巨鴻の卵のあたたかき色、能面、山姥の子、話し得ずして終わる話、恨めしきものは朝のひかり。

狭き廟なる房(へや)のなか、燭火とりて崇むるは六手の観音、秘宝の本尊、あな尊と、おそろしき金色の瞳の濡れ色、伝え得ぬもの、秘教の幻法、魔法の真理。

  銀瓶宮  第六篇

溢れ出づるもの、機械仕掛けの銀瓶の七層に亦つらなりて、或いは漏れてあるいは滀まり、弥繁けに水の多かる、弥繁けに重ねられたる、溢れて已まず。

その水のさらに溢れてきらきらの銀の雫の流れ落ちて菫を濡らす。紫の菫、銀の絲、銀の雫の膜をおびて、さらさらの古き土器(からわけ)、水は満ちてかみ寂びにけり。花の香の澄みて冴えけり、流れて已まず。

古き木の伐られ置きたる、銀の瀧の光を灌(あび)て、古き代の神代の姿、団欒(まとい)せる七束の簫(ふえ)、取鎧ふ七十羽の舞、流汜婉轉、雨ふれば七種の尾の垂(しだ)り水のさらさら鳴いて雨がふる、銀の簫の音すみにけり。

霖(あめ)の日に飛ぶ蝶ひとり、銀の雫を草の沐び、雫を散らせり。蛹は濡れて色もなし、溢れ出づるもの、機械仕掛けの銀瓶の泉なし瀧なす底に游ぶ蛟の鱗。

月の光にふる雨の、濡らして雫れる、七層積みの銀瓶のさらさら落ちて、その底に溜まる花たち、銀瓶の水は溢れてやまず、月白々(しろじろ)。

  碧牛宮  第六篇 第五章

靡々たり、繽紛たり、聯緜たり、雍々たりて、その翮(はね)の色は碧は五月の潤いを含み蒼は翳れる叢茂(しげみ)を彷彿(おもわ)せ、艶やかなれや、頸の瓔珞は璀々たる水藻の濃やかさ、絳の照映ゆ貌は酴醾、薔薇の花を烹たものに似て、天女淫麗の像数多ある、華だらけなる苑囿(その)をゆけり。七妻の雌をぞ連ぬる凝宝煉璃の宮第は碧紗青縠のさらさらに重なりて、七十羽の雛の色さえ窓に鏤らせり、ひらひらに裳は翮に似て相搦みたり。

  碧牛宮  第五篇 第五章

ウララカニ 華ニ満チタル 春ノ楼、
七層二層の傍ラニ イトゞ高カリ 危フカリ、
海ツヤツヤに 漪ウララカニ、
ツヤツヤヌラス 楼ノ苑(ニワ)
華ニ埋モレテ 耀ヤケリ。

十方法界ソノナカニ、斜メ格子ノ欄ノアヒ
雲ヲ纏ヘルソノ蛇ノ ユラユラ踊ル
遊ビノ苑ノ 調度ニテ。

  紫蠍宮  第五篇 第三章

兎たち、野辺に遊びて戯れぬ。
標野ハズカシ、兎ノ遊び、
コロコロハネル赤い靴、アハレ恥カシ脱ゲニケリ。
兎たち、野辺に戯れキラキラリ。

  磨羯宮  第五篇 第五章

店に入ればとろりと闇き、甘やかな香り満ちたり。並べたる伽羅と寸聞多羅、乾びたる色様々にむらさきに黄金をふふむ、籠につむ種々の果の、いとど艶なれ。

  紫蠍宮  第三篇

灝々たる水の中、水怪魑魅に足をつかまれ、ごぼごぼと溺れる人の、ぐるぐると洄(うず)なす流れ、逆らい得ぬは絡みつく藻、ふさぐ萍蘋(うきくさ)、茂れる根、とろとろまる深い水、荇藻藕絲の中に住む鮫人の姫。

離れ得ぬもの、ゆるゆるつづく夕べの舞ひ、くるくる廻るさびしさに黄金(くがね)も玉も飾り立て、弥(いや)いつくしく踊りたり。

風まじり、雨のまじれる舞踏会、広間の中のシャンデリヤ、きらきら明るい華やかさ、重く垂(さ)がれるカアテンの襞の翳まで踊りたり。趣向を凝らすテーブルの茶盃、梅瓶、薄いさざんか、紅茶の色こそ悲しけれ。

裏にめぐらす配線の四通八達 裏通路、じめじめ暗い通り路、風もかよわぬ隠し路、砂のお城の舞踏会のさらさらに幾重にもまた覆い隠せり。

  磨羯宮  第五篇 第五章  二

炎熱のインドネシア商館よりさしあげる手紙にて、本国の人の未だ知らざる奇宝物華を取り入れられて、愈々優雅なる日常を過ごされんことを。

ひとたび看られるを請ふは、東方支那の紗縠、金襴、花緞、綾縵、永らく愛づるを冀ふは、妖艶清雅の酴醾、海棠、羅梅、纈櫻、寝台に吊るして青鸞の厳(いつく)しき梅に留まるに、その花に尾を簪(さ)し、朱鳳の雨梨を貪るに、その芒熛は萼を染めて、鴻鵠の薄に眠るに天清くして水ひややかに、鸑鷟の菫を銜ふに紫彩霜色きららかにして濃やかなれば、亦瑰邁詭譎(けばけば)しき南閻浮提の妖匹幽帛のと合わせて数十枚、侯の呈覧を辱(かたじけなく)するを願います。……

 サビアンシンボルを題材にした詩を幾つか書いてみました。星座の名前が少し変わっているのは、詩の嘘みたいなものです。ちょっとあれな詩が多いのは、北原白秋『白金之独楽』『篁』あたりを読んでいる時期だったので(定期的に来る白秋ブーム。白秋のリリス山羊座26度が、海王星山羊座26度・月山羊座29度に重なってくるので、何度読んでも酔える)、みたいな感じです。

 イラストはサビアンシンボルの全度数を描いている文月ルビーさんの作品から借りています。サビアン計算機のサイトも、デザイン・機能性ともにすごく好みで、どことなく個人的な感覚ですがギュスターヴ・モローのような色や雰囲気があって魅力的です。あと、このブログで使っているサビアンの訳は、文月さんの訳に依っていたりします(どことなく詩趣を湛えた訳が好みです)。

 こんなに不思議で魅力的な作品を無料で使わせていただけて、とても感謝しています(こちらのサイトでダウンロードできます、ありがとうございました)

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)の月天王星海王星合だったりします笑。 易・中国文学などについてのブログも書いてます

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