創作・エッセイ

露伴風の俳句

 今まで下書きは手書きで作ってあったけど、打ち込むのがあまりに疲れそうなので引き出しに蔵いつづけていた幸田露伴のホロスコープリーディングをようやく投稿できたのですが、露伴の俳句は個人的にかなり好みなので、いままで作った中で露伴風の雰囲気を帯びている句を幾つか載せておきます。

新蓑の時雨を垂らす部屋の隅
春の日も遊びあえずや屏の裏
博山の松にも蒼き小雨かな
芍薬を生やす向こうの調度替え
虹しげき驪山宮(りざんのみや)の春の雨
枯野見に往いて川面の青さかな
梅の花のびてしだれておさまらず

 一つめの「新蓑の……」は『紅楼夢』(第何回だか忘れたけど)で雨の中を蓑・菅笠姿で通ってきて、部屋の中でそれを脱いで……みたいな場面があって、外は時雨が降っているけど、部屋の中でやや温くなって掛けられた蓑から雫が落ちている……みたいな風景です。蓑はぼろぼろというより新しい感じのほうが『紅楼夢』っぽいという雰囲気づけです(どうでもいいですが、露伴は『紅楼夢』の翻訳にも少し関わったりしています)。

「春の日も……」は、露伴の『雪たたき』で

 此処は当時明や朝鮮や南海との公然または秘密の交通貿易の要衝で大富有の地であった泉州堺の、町外れというのでは無いが物静かなところである。

 夕方から零ち出した雪が暖地には稀らしくしんしんと降って、もう宵の口では無い今もまだ断れ際にはなりながらはらはらと降っている。片側は広く開けて野菜圃でも続いているのか、其間に折々小さい茅屋が点在している。他の片側は立派な丈の高い塀つづき、それに沿うて小溝が廻されている、大家の裏側通りである。……

……物騒な代の富家大家は、家の内に上り下りを多くしたものであるが、それは勝手知らぬ者の潜入闖入を不利ならしむる設けであった。

というのが、何となく陰翳の多くて段差があちこちにある家の、さらに春の日に少し暖かくなっても、その屏の翳にまだ寒いところが滀まっているような感じから出てきてます(個人的にこれはすごく気にっている)。

「博山の……」は、中国に博山香炉というのがあって、博山は霊山仙山とされているのですが(その博山はどこにあるのか、モデルが何なのか分からないけど)、その山に霊獣飛僊が漂って奇樹嘉木がたわわに実っている間から仙気縹渺として隠れる如く現るる如く……みたいな雰囲気になるのが博山香炉です。

 どうでもいいのですが、最近の加湿器ってすごくおしゃれなデザインのものが増えてきていて、雫型(?)みたいなのが何となく博山香炉に似ていると思っていて、特に先のところから煙を吐いているのがそれらしいです。そして、全体的にぼんやり青く光っていたりするのですが、それが温泉の廊下に置いてあって、その日はぼんやりと秋の終わりで雨が降っている日だったので、温泉の窓から横に大きく這うように伸びている松に雨が降っている様子が仙境っぽい、それはたぶん博山の雨で(神仙の句は無季が意外と似合う)……という作品です。

「虹しげき……」は同じく温泉で、季節は忘れたけど、たぶん冬だった気がする(椿が咲いていたので)のですが、もやもやと湯気が立ち籠めている様子が春のほうが似合うというのと、幾つも亭台ふうの湯舟がある様子が驪山宮(温泉のある離宮)のようだったので、さらに虹も春の雨や屋根から落ちる水であちこちに掛かっていて……みたいな濛々穠々としている様子です(露伴がつくった「長安の辻や落葉も落ち着かず」の同工異曲だったりする)。

 枯野見は冬に枯野をみる行事(遊び)です。家の近くに土手があって、そこそこに川のそばになかなかの枯野が広がっているので、冬は休みの日は大抵 枯野見の散歩にいくという趣味があります(今の時期は暑いので、ほとんど出ないけど)。

「梅の花……」は、今年の三月の終わりあたりに秩父に行ったときに、秩父鉄道(秩父に行くときのローカル線です)の駅から、たぶん秩父に入ってからの駅だったと思うけど、秩父鉄道の駅はほとんどが無人駅で、その駅では近くの家から線路のほうへ、電車にふれるくらいに大きくて枝がしだれて絡まりあって手入れもされていない梅(その手入れされていない様子が美しかった)が咲いていたので……という句です。こういう不規則な語の選び方も露伴には多い気がする(「しぐれしぐる橋は十二の皆ほそき」など)。

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)の月天王星海王星合だったりします笑。 易・中国文学などについてのブログも書いてます

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