先秦

周礼  妖の古代世界

「ぬぃの中国文学ノート」にご来訪ありがとうございます。

 こちらの記事では、ふつうはあまり文学として読まれることはないのですが、かなり味わい深い文体をもっている『周礼』(周代の官制をまとめた物)の世界を紹介してみます。

 もともと文学作品ではないのですが、造語感覚がとても独特で、一目みただけで、他とはまったく異なる不気味な世界を感じさせられる――というところが大きな魅力になっていて、私はけっこう好きだったりします(ちなみに、作者不詳で、先秦のころにつくられたとされます)

 というわけで、さっそくご紹介に入っていきます。

方相氏

 まずは、「方相氏(ほうそうし)」という官職について記したところです。

方相氏:熊の皮をかぶり、黄金の仮面で四つの目がある。黒い衣に朱い裳で、戈を持ち盾を振りあげ、百隸(百官)をひきいて儺(鬼を追い祓う祭り)をして、部屋の中から疫鬼を追い出す。

王が亡くなると、柩(ひつぎ)の前を歩き、墓まで来ると、壙(墓穴)に入り、戈で四隅を叩いて、方良(妖怪)を追い出す。

方相氏:掌蒙熊皮、黄金四目、玄衣朱裳、執戈揚盾、帥百隸而時難、以索室駆疫。大喪、先匶。及墓、入壙、以戈撃四隅、駆方良。(夏官・方相氏より)

 この一節のおもしろさは、鬼についてだけ異様に語彙が豊かなところです。まず、「方良(ほうりょう)」というのは「魍魎」と同じだと思ってください。

 そして、この「方相氏」という語も、実は「方良・魍魎」などと同じで、もやもやとして不気味なもの、という意味だったりします。

 しかも、「儺(鬼を追い祓う儀式。今の節分の原型のようなもの)」だったり、「駆疫(疫鬼を追い出す)」だったりと、異様なまでに見えない鬼についての語彙だけがやはり豊富です。

 こんな感じで、やたらと鬼や妖怪ばかりがウロウロと漂っている古代の不気味な世界が、なんとなく垣間見えてくるのが『周礼』の味わいだったりします。

大祝

 もうひとつ、『周礼』の異様な世界がみえる一節をのせてみます。

大祝:……六祈をつかさどり、鬼神たちを和やかにさせる。一つめの祭りを類、二つめを造、三つめを禬、四つめを禜、五つめを攻、六つめを説という。……また六つの號(呼び名)をつかさどり、一つめを神号、二つめを鬼号、三つめを示号、四つめを牲号、五つめを齍号、六つめを幣号という。

大祝:……掌六祈以同鬼神示、一曰類、二曰造、三曰禬、四曰禜、五曰攻、六曰説。……辨六號、一曰神號、二曰鬼號、三曰示號、四曰牲號、五曰齍號、六曰幣號。(春官・大祝)

 ……なにこれ、という感じです(笑)

「類」は天帝をまつること、「造」は祖先をまつること、「禬(かい)」は災いを除くこと、「禜(えい)」は山川の神をまつること、「攻」は悪い霊を攻め立てること、「説」は悪い霊を責める言葉をいうことです(笑)

 さらに、「神号」は天界の神の名、「鬼号」はまつられる祖先の名、「示号」は「祇合」と同じで土地・山川・住居などの神々の名、「牲号」はお供えの動物の名、「齍号(しごう)」はお供えの穀物の名、「幣号」はお供えの玉や布の名です。

 こんな感じで、同じ祭りでもいろいろと祀り方によって呼び方がかわったり、そこで祀られる神々もいろいろと細かい呼び名があったりして、いかにも祭祀中心に成り立っている世界がみえてきます。

庶氏・壺涿氏

 最後は短めのものをふたつ用意してみました。

庶氏:毒蠱を取り除くために、攻・説によって災いを祓い、嘉草(薬草)によって攻める。(秋官・庶氏)
壺涿氏:水蟲(水に棲むもの)を片付ける。土を焼いてつくった鼓で追い出したり、灼けた石を投げ込む。もし霊力を持っているものを殺さなくてはならないときは……して、その神が死んだあとは、その淵は埋めて土山にする。(秋官・壺涿氏)

庶氏:掌除毒蠱、以攻説禬之、嘉草攻之。(秋官・庶氏)
壺涿氏:掌除水蟲。以炮土之鼓駆之、以焚石投之。若欲殺其神、……則其神死、淵為陵。(秋官・壺涿氏)

 これは、妖怪などを大真面目に相手にするような係を選んでみました(笑)

 まず、庶氏のほうは、霊力のある虫などをつかって呪われている人がいたときは、まずその虫を「攻・説(祭具によって攻め立てたり、呪詞によって殺す)」して、さらに薬草で弱らせます。

 もうひとつの壺涿氏(こたくし)のほうは、水中にいる毒蛇などを追い出すのがメインですが、ときどき強い霊力をもっている水中の魍魎に出会ってしまうことがあるので、そういうときは倒したあとに埋め立てて、お墓のような土山をつくる――という感じです。

(なんていうか、ここまでくると、もはや神社の始まりを描いた絵巻だったり、妖怪や神々と人間が同じ大きさで生きている気がしてきます……)

 というわけで、『周礼』の妖や神々、山川の霊などがあちこちに涌き立っているような、不気味で古代らしい世界をご紹介してみました(神々への敬意にあふれすぎていて、かえって異様というか奇怪というか、淫祀が豊かになりすぎている感じがたまりません)

 ちなみに、「礼」っていうと、もっと堅苦しいイメージがあるかもですが、『周礼』の世界はむしろ幻想的&自然の香りがとても豊かだったりします(大真面目に妖怪などを相手にすることを想定した係がけっこうあります……)

 というわけで、かなり異色の記事になってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。

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ぬぃ
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